櫻木 美菜(崇城大学工学部ナノサイエンス学科)
平成30年12月6日(木)16:00〜17:00
基礎研究棟2階 教職員ロビー
1.緒言
経皮吸収型ドラッグデリバリー(TDDS)において、肌の奥深くまで高効率に有効成分を浸透させる際、皮膚の高いバリア機能を有する角層への透過が律速段階となる。マイクロエマルション(ME)は、経皮浸透を高める手段の一つとして研究されているが1、既存の研究では生物学的実験に重点が置かれ、球状構造以外のMEについての検討が行われていない。MEの大きさや構造に依存して、経皮透過機構が異なることが考えられるため、TDDSの発展においてMEの構造と経皮浸透性との関係性を明らかにする必要がある。
我々は界面活性剤の凝集特性を大きく変えると報告される深共融溶媒(DES)に着目し、DESを内相へ導入したDES/Oil型MEを作製した。DESは、水素結合受容体である塩化コリンに、尿素や有機カルボン酸など水素結合供与体を混合し調製される。生体適合性に優れ、安価な材料で構成されることから、近年イオン液体の代替溶媒として注目されている。DESはポリフェノール類、ダナゾールなどの難水溶性化合物や、DNA、キチン、タンパク質など高分子の溶解性が著しく高いことが報告されているため2、DES/Oil型MEは、これらのTDDSに利用できると考えている。
本研究では、DES/Oil型MEの界面活性剤の組成、DESの添加量を変えたときの構造を小角X線散乱(SAXS)、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて明らかにし、DES/Oil型MEの構造制御に関する新たな知見を得た。
2.実験方法
界面活性剤として、Tween-80、Span-20、溶媒としてミリスチン酸イソプロピル(IPM)を用いた。IPM中にこれら二種類の界面活性剤を分散させ、DESあるいは水を滴下して、超音波分散を行い、MEを作製した(界面活性剤:20wt%、DES、水の混合溶媒:4wt%、IPM:76wt%)。Tween-80、Span-20の重量比は、3/1、1/3に変化させたものを調製した。それぞれのサンプル名はT3S1、T1S3と記載する。また、MEに内包させるDESと水の重量比は、1/0、9/1、7/3、1/1、0/1のものを調製した。
3.結果と考察
図1はT3S1にDESと水の重量比が異なる混合溶媒を添加した際のSAXSプロファイルを示す。水を添加した際は、低角側のべき乗の傾きが水平となり球状構造の存在が示唆された。DES/H2O=7/3、9/1、1/0のときは、低角側の傾きが-1乗となったため、棒状構造の存在が示唆された。また、DES/H2O=1/1のとき、低角側の傾きが-0.4乗となったため、棒状と球状の構造が混在していると考えられる。MEの構造は、内側の内相、界面活性剤の相からなっており、多層球あるいは多層シリンダーの理論式でフィッティングできると考えられる。多層球、多層シリンダーのモデルでは、界面活性剤と溶媒との界面が鋭いことが仮定されており、広角側の傾きが-4乗となる。一方で、得られたSAXSプロファイルは、全ての組成において広角側の傾きが-2乗となった。これは、MEの外相のアルキル鎖が、ガウス鎖としてふるまっており、単純な多層モデルでは近似できないことを示している。そこで、球またはシリンダーをガウス鎖で修飾した、コア-コロナモデルを利用し、フィッティングを行ったところ、実験データをよく再現することができた。さらに、透過型電子顕微鏡(TEM)観察を行なったところ、DESを内相に加えると直径約8nmのシリンダー、水を内相に加えると球状粒子が凝集した構造であることがわかり、SAXS解析結果とよく一致した(図1b、c)。
次に、T1S3にDESと水の重量比が異なる混合溶媒を添加したサンプルについて、SAXS測定を行った。T1S3では、添加するDESと水の比に関わらず全て球状MEを形成したが、DESの比が増えるほど粒子径が増加する傾向にあった。T1S3のSAXSプロファイルについても、コア-コロナモデルで実験データをよく再現できた。以上の結果より、DESは界面活性剤の頭部との疎溶媒相互効果により界面活性剤を凝集させやすいこと、Tween-80はSpan-20よりアルキル鎖が長く、アルキル鎖に不飽和結合を含むため、棒状MEを形成しやすいことがわかった。
4.参考文献
1) J. Coll. Int. Sci.2010, 352, 136-142
2) C. Lu et al., Med. Chem. Commun. 2016, 7, 955-959
図1 (a)灰色:T3S1のSAXSプロファイル、黒:理論曲線、(b)T3S1 (DES / H2O = 4/1)のTEM像、(c) T3S1 (DES / H2O = 0 / 4)のTEM像
生命科学講座 化学・実験実習支援センター 共催
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Last Updated 2018/10/16