カナダ・ラバル大学医学部解剖学生理学講座 CHULリサーチセンター 漆谷真
平成18年8月31日(木)16:00〜
基礎研究棟2階 教職員ロビー
家族性筋萎縮性側索硬化症(ALS)の原因遺伝子としてスーパーオキシドジスムターゼ1(SOD1)の突然変異が同定されて13年が経つ。SOD1は細胞質タンパクにも関わらず分子内にジスルフィド結合を有するという特殊なタンパクで、153アミノ酸のうちに実に100種類以上の変異が報告されている。酵素活性やβシート等の分子内構造とは無関係に同様の臨床・病理所見を呈することから、全ての変異に共通する「gain of toxic function」として数多くの仮説が提唱されてきた。最近の研究により、分子内ジスルフィド結合がSOD1の正常な折りたたみ(フォールディング)の鍵となっており、細胞質内還元状態下のモノマー化と酸化状態によるオリゴマー、アグリゲーションの形成が多くの変異に共通し、かつ疾患に関与する分子特性であることが明らかとなった。この現象は変異SOD1タンパクと、熱ショックプロテインやユビキチン-プロテアソーム分解系の関与の分子背景となっている。その一方で、近年のALS研究において最も注目されているのは、グリア細胞、介在ニューロン等、運動ニューロン以外の細胞に由来する変異SOD1タンパクがALSの発症に重要という“non-cell autonomous motor neuron death”と呼ばれる現象である。我々は酵母two-hybrid法を用いて変異SOD1特異的結合タンパクとしてクロモグラニンを同定した。さらに細胞質タンパクである変異SOD1がクロモグラニンとともにER-Golgi系を経て細胞外分泌されること、細胞外変異SOD1タンパクがミクログリアを活性化し、運動ニューロン毒性を有することを示した。さらにプロテアソームの機能低下とともに細胞外分泌が亢進することから、変異SOD1のミスフォールディングとnon-cell autonomous motor neuron death現象を結びつけるメカニズムと考えられる。今回のセミナーでは、演者の関わった変異SOD1のミスフォールディングと細胞外分泌説に加え、この仮説に立脚した免疫療法、今後の展望についても概説する。
分子神経科学研究センター 共催
このセミナーは大学院の講義として認定されています。 |
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Last Updated 2006/7/28