深津 尚史(同心会杉田病院精神科・神経科/愛知医科大学精神科)
平成23年11月29日(火)18:30 〜
実習棟2階 B講義室
幻覚の問題は古くて新しい。幻覚に対する精神医学的な定義は、Esquirol(1817)により初めて提唱され、「感覚を刺激する対象がないにもかかわらず、それを知覚しているという内心からの確信」と定義された。しかし、一般には、Ball(1890)の「対象なき知覚perception sans object」という定義が有名である。Ballの定義に従えば、知覚には視覚・聴覚・嗅覚・味覚・体性感覚があるのに対応し、幻覚には幻視・幻聴・幻嗅・幻味・体性幻覚があることになる。
演者らの調査によれば、平成17年1月〜12月に愛知医大精神科を受診した患者3087名(男性1361名、女性1726名)中、356名(約12%)が幻聴を呈し、121名(約 4%)が幻視を呈した。幻覚は決して稀な臨床症状ではない。
しかし、現在の精神医学では、幻覚の研究は主流ではない。その理由として、幻覚は主観的な体験であるため、その有無を他人が客観的に判断する術がなく、脳画像的手法を中心とする今の神経科学の実験系にそぐわないことが考えられる。そのため、精神科の臨床場面では、幻覚の病態生理を考えることなく、漫然とdopamine blockerを処方しているのが現状である。
今回、演者らが報告した幻覚の症候学的研究・症例報告を、知覚を対象とした神経科学の所見と照らし合わせることで、脳の観点と矛盾しない幻覚の病態仮説を提示したいと考えている。発表するテーマとして、幻視・自己像幻視・幻聴に加え、時間が許せば、体性幻覚を皮膚寄生虫妄想の観点から検討したい。
滋賀医科大学解剖学講座・実験実習支援センター 共催
このセミナーは大学院博士課程の講義として認定されています。 |
前へ | 先頭へ |
Last Updated 2011/11/15