中尾 光善(熊本大学 発生医学研究所 細胞医学分野 教授)
平成24年4月17日(火)16:00 〜
基礎研究棟2階 教職員ロビー
エピジェネティクス機構には、DNAのメチル化、ヒストンの翻訳後修飾、クロマチンの形成があり、転写調節因子と協働することで、遺伝情報発現に基づく細胞機能を創出している。現在までに、DNAメチル化酵素、メチル化DNA結合タンパク質、ヒストン修飾・脱修飾酵素、クロマチン構造因子、クロマチンリモデリング因子等の分子群や機能的な複合体が明らかにされている。これらが連携することによって、高次のクロマチンが形成されて、ゲノム上の個々の遺伝子は、組織特異性または細胞状況に応じて発現制御されている。細胞核内のエピゲノムにおいては、各遺伝子に備わるエンハンサー、プロモーター、インスレーター(クロマチンの境界)の諸要素が相互作用しており、立体的かつ動的なクロマチンループを形成することが判明してきた。例えば、ヒトのアポリポタンパク質の遺伝子クラスター領域(高脂血症の発症に関わる)では、CTCF依存性インスレーターの相互作用によってクロマチンループを形成して、肝細胞に特異的な発現を維持している。さらに、エピゲノムは細胞内外の刺激に予想以上に動的に応答しており、エピゲノムの変化が細胞制御と病態に関わることが示唆されてきた。炎症応答におけるTNF/LT遺伝子クラスター、細胞リプログラミングにおけるINK4/ARF遺伝子クラスターの高次エピゲノムの動態を明らかにしている。また、LSD1(ヒストンH3の4番目リジン残基の脱メチル化酵素)がエネルギー消費を調節する仕組みを最近明らかにした。LSD1阻害によって脂肪細胞のエネルギー消費遺伝子の発現が誘導され、その結果、ミトコンドリア機能とエネルギー代謝が向上することが判明した。本講演では、エピジェネティクス機構の観点から、細胞制御と病態における新しい知見を紹介し、その作動原理と生命活動における意義について議論したい。
滋賀医科大学解剖学講座・実験実習支援センター 共催
このセミナーは大学院博士課程の講義として認定されています。 |
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Last Updated 2012/4/2