岡野 純子(滋賀医科大学解剖学講座生体機能形態学部門准教授)
平成24年8月6日(月)16:00 〜
基礎研究棟2階 教職員ロビー
ビタミンAの誘導体であるRA(retinoic acid: RA)は成人のホメオスタシスの維持のみならず、胎児正常発生に必須である。一方過剰なRA摂取は、ヒト、実験動物双方において、胎児に神経系、心血管系を始め重篤な先天異常をもたらす。従来、過剰なRAが胎児に及ぼすメカニズムの解析は、妊娠動物にRAを過剰投与する実験系を用いて行われてきた。しかしRAは半減期が約2時間と比較的短いため、RA濃度をin vivoで持続的に一定に保つのは殆ど不可能であり、実験結果の解釈は困難であった。またRA投与によりひきおこされる重篤な先天異常のため、初期発生段階で胎児が致死に至り、皮膚およびその付属器等後期に発生する器官の解析ができなかった。
今回我々はRA分解酵素であるCyp26ファミリーに注目し、Cyp26b1がマウス胎生の真皮および毛乳頭に強く発現していることを見出した。Cyp26b1を完全に欠損させたマウス(Cyp26b1-/-マウス)を作製したところ、フィラグリンの減少を特徴とする皮膚分化およびバリア形成異常が見られ、上皮細胞が分化する際に脱落する周上皮の固着が観察された。また、毛包の発生はgerm stageで停止していた。
Cyp26b1-/-マウスは胎生致死のため、胎生18.5のCyp26b1-/-マウスの皮膚をヌードマウスに移植したところ、RA濃度の正常化と共に皮膚および毛包分化が正常化した。また、Cyp26b1を真皮特異的に欠損させたコンディショナルノックアウトマウスの毛包の表現型は、Cyp26b1-/-マウス毛包とヌードマウスに移植した毛包の中間型を示した。以上の実験から、皮膚および毛包の発生は内在的RA濃度に依存性であり、その正常発生にCyp26b1を介したRAシグナリングの調節が不可欠であることが判った。
滋賀医科大学解剖学講座・実験実習支援センター 共催
このセミナーは大学院博士課程の講義として認定されています。 |
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Last Updated 2012/7/23