富田 泰輔(東京大学大学院薬学系研究科臨床薬学教室准教授)
平成25年7月26日(金)17:00 〜
基礎研究棟2階 教職員ロビー
現在、アルツハイマー病(AD)患者脳の病理学的特徴である老人斑の主要構成成分であるアミロイドβタンパク(Aβ)の産生および蓄積がADの発症に深く関係しているという、「アミロイド仮説」が支持されている。一方老人斑は非認知症高齢者においても観察されることから老化とともに蓄積が観察される現象として捉えられてきた。近年、目覚しく進歩を遂げたイメージング技術により、脳アミロイド陽性患者は陰性患者に比べて大脳皮質萎縮の進行が速くAD発症リスクが有意に高いことが示され、老人斑蓄積と神経変性、すなわちAD発症リスクに深い関係が有ることが実証された。しかしその一方で、認知症発症後のAD患者に対する抗Aβ療法の治験では、認知機能の改善には至っていない。すなわち大量の神経変性を生じた後では、抗Aβ療法は十分な治療効果を有しない可能性を示している。したがって、AD発症リスクを分子レベルで正しく理解し、リスクの高い個人に対して未発症期ないしPreclinical ADの時期に発症を予見して予防的に抗Aβ療法を行う、先制医療(Pre-emptive medicine)の必要性が強く示唆されている。Aβは、前駆体タンパクAPPからβ及びγセクレターゼによる2段階の切断により生じ、NeprylisinやIDEなどの分解酵素や、ミクログリアの貪食などにより除去される、「Aβエコシステム」と呼ぶべき分子メカニズムによって脳内レベルが制御されている。これまでに我々は生化学、分子細胞生物学に加えて化合物を用いたケミカルバイオロジーを利用し、セクレターゼによる切断機構の理解と活性制御法の開発を推進してきた。同時に様々な遺伝学的リスク因子がセクレターゼ活性に影響を与えることを見出した。これらの知見を基に、ADの先制医療・治療法の開発を目指したい。
分子神経科学研究センター・実験実習支援センター 共催
このセミナーは大学院博士課程の講義として認定されています。 |
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Last Updated 2013/2/8