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三重免疫組織化学染色法ー共焦点レーザー走査顕微鏡を用いてー


新井 良八(解剖学第一講座)

1. はじめに
 同一切片上で、複数の物質の存在部位を明らかにすることはより多くの情報をもたらす。蛍光抗体法と共焦点レーザー走査顕微鏡を用いて、三重標識する方法を紹介する。

2. 蛍光抗体法
 組織切片を一次抗体(抗原に対する抗体)で反応した後、蛍光物質で標識した二次抗体(一次抗体に体する抗体)で反応する。

図1

3.  蛍光物質
 蛍光物質はそれぞれ特異的な吸収ピークと発光ピークを持つ。吸収ピークはその蛍光物質が最も良く吸収する光の波長を示す。光の吸収によって励起された蛍光物質は発光するが、最も強く発光する光の波長を発光ピークという。下記に各種蛍光物質の吸収ピークと発光ピークを示す。

蛍光物質吸収ピーク(nm)発光ピーク(nm)
Aminomethylcoumarin, AMCA350450
Dichlorotriazinylamino Fluorescein, DTAF492520
Fluorescein Isothiocyanate, FITC492520
Indocarbocyanine, Cy3550570
Tetramethyl Rhodamine Isothiocyanate, TRITC550570
Lissamine Rhodamine Sulfonyl Chloride, LRSC570590
Texas Red Sulfonyl Chloride, TRSC596620
Indodicarbocyanine, Cy5650580

4. 蛍光顕微鏡の原理
 蛍光顕微鏡は基本的に水銀ランプ、対物レンズ、接眼レンズ、ステージ、励起フィルタ、吸収フィルタおよびダイクロイックミラーで構成される。水銀ランプから発した光(紫外線と可視光を含む)のうち、励起フィルタによって、蛍光物質を効率的に励起する波長の光だけが透過する。励起光はダイクロイックミラーを反射し、蛍光物質を照射する。蛍光物質から出た蛍光はダイクロイックミラーを通過し、吸収フィルタによって蛍光物質に特異的な光を通過させる。

図2

フィルタ
 Band Passフィルタ ex. BP460-490は460nmから490nmまでの波長の光だけ通過させる。
 Long Passフィルタ ex. LP515は515nm以上の波長の光を通過させる。

ダイクロイックミラー
 FT510は510nm以下の波長の光は反射するが、510nm以上の波長の光は通過する。

FITCの吸光曲線と発光曲線および
FITC観察用の励起フィルタ(BP460-490)と吸収フィルタ(LP515)の特性
図3

5. 共焦点レーザー走査顕微鏡の原理
図4
 レーザー光はチューブレンズ(1)と対物レンズ(2)とを通り、スキャナによって試料(3)上にフォーカスされる。試料の焦点面(4) とその上下(破線)から発した光は、ふたたびスキャナを通ってダイクロイックミラー(5)によりピンホール(7)上に結像される。その像を光検出噐(6)によって検出する。ピンホールが、試料の焦点からはずれた位置から発する光を排除する。吸収フィルタ(Fi)によって、蛍光物質に特異的な光を通過させる。

6. 蛍光顕微鏡と共焦点レーザ走査顕微鏡
 蛍光顕微鏡では焦点面以外からの光も検出してしまうが、共焦点レーザ走査顕微鏡では焦点から発する光だけを検出するため、共焦点レーザ走査顕微鏡の方が高い分解能と良いコントラストの像を得ることができる。複数の蛍光物質によって標識された試料を観察し、それぞれの蛍光物質からの像を重ね合わせるとき、共焦点レーザ走査顕微鏡ではそれぞれの像の分解能とコントラストが良いため、重ね合わせた像も分解能とコントラストが良くなる。

7. 三重免疫組織化学染色法と蛍光物質
 三重免疫組織化学染色法において、ここでは一次抗体としてウサギ抗オキシトシン抗体、マウス抗カルビンヂン抗体、ヤギ抗カルレチニン抗体を使う。三重標識に使う蛍光物質としては、吸光ピークと発光ピークの特異性から考えて、FITC,Cy3およびCy5の組み合わせが良い。ここでは二次抗体はFITC標識ロバ抗ウサギIgG抗体、Cy3標識ロバ抗マウスIgG抗体、Cy5標識ロバ抗ヤギIgG抗体を使う。同一切片上で三重染色する時、まず3種類の一次抗体の混合液で反応し、次に3種類の二次抗体の混合液で反応する。最終的に、オキシトシンはFITC で、カルビンヂンはCy3で、カルレチニンはCy5でそれぞれ標識されることになる。

7-1. 一次抗体の必要条件
 一次抗体はそれぞれ異なる動物で作られたものを使う。

7-2. 二次抗体の必要条件
 3種類の二次抗体はできれば同じ動物で作られることが望ましい。それは3種類の二次抗体が互いに交叉する可能性を小さくするためである。ここでは、3種類の二次抗体ともロバで作ったものを使用している。またある一次抗体に対応する二次抗体は、その一次抗体以外の2種類の一次抗体を作った動物の血清タンパクで吸収する必要がある。それは二次抗体が対応する一次抗体以外の一次抗体と交叉する可能性を小さくするためである。ここではFITC標識ロバ抗ウサギIgG抗体は、マウスおよびヤギの血清タンパクで吸収したものを使っている。他の二次抗体も同様に吸収している。これらの二次抗体は市販されている。

7-3.  励起光と吸収フィルタとダイクイックミラー
 励起光と吸収フィルタは下記のものを使う。
 FITCの観察のためには励起光488 nm 、吸収フィルタBP505-539を用いる
 Cy3の観察のためには励起光568 nm 、吸収フィルタBP589-621を用いる
 Cy5の観察のためには励起光647nm 、吸収フィルタBP644-696を用いる
 ダイクイックミラーは下記の性質のものを使う
図5

7-4. 蛍光物質と励起光、吸収フィルタとの関係
図6

7-5. コントロール
 3種類の一次抗体の特異性は抗原による吸収試験やウェスタンブロットなどで確かめる。またある一次抗体は、他の一次抗体が認識する抗原と交叉しないことも確かめる。
 二次抗体が対応する一次抗体以外の一次抗体と交叉しないこと、二次抗体が互いに交叉しないこと、またある蛍光物質を観察すための励起光、吸収フィルタおよびダイクロイックミラーにおいて他の蛍光物質を検出しないことを確かめる必要がある。そのためには、一次抗体としてある一種類の抗体を使い、二次抗体として3種類の標識抗体の混合液を用いる。反応した切片を、使用した一次抗体に対応する蛍光物質を観察するための励起光、吸収フィルタおよびダイクロイックミラーで検出でき、他の蛍光物質を観察するための励起光、吸収フィルタおよびダイクロイックミラーでは検出できないことを確かめる。ここではたとえば、一次抗体としてウサギ抗オキシトシン抗体を使い、二次抗体としてFITC標識ロバ抗ウサギIgG抗体、Cy3標識ロバ抗マウスIgG抗体、Cy5標識ロバ抗ヤギIgG抗体の混合液を使って反応させる。その切片において FITC(励起光488 nm 、吸収フィルタBP505-539)は検出できるが、 Cy3(励起光568 nm 、吸収フィルタBP589-621)およびCy5(励起光647nm 、吸収フィルタBP644-696)を観察する条件では検出できないことを確かめる。

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Last Updated 2005/8/8