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生体情報の3次元可視化技術


小森 優  (生命情報学 教授)

3次元再構成、Surface rendering、Volume rendering

 生体情報を扱う上で、データの3次元構造を可視化する必要が生じることが多い。X線CTやMRIなどの画像検査データや共焦点顕微鏡像といった形態計測データでは、2次元断層像だけでは理解できない立体構造を把握したり、3次元的な形態計測、例えば肝移植の際の局所組織の体積計算といった局面で3次元再構成が必要となる。また、fMRIにおける賦活部位の立体分布や顕微鏡像における蛍光物質の分布など、計測方法が確立された生体機能や化学活性の立体分布、立体構造を可視化することは、組織と機能の関連や細胞内の機序の立体的な理解の上で重要である。
 こうした計測データの3次元画像化には、通常計測機器に組み込まれた機能や既成のソフトウェアを用いて行われている。しかし、その再構成過程はブラックボックスとして扱われ、得られた画像からの表面的な理解しか持たないことが多い。ここでは、基本的な3次元画像表示の手法を解説する。この解説を通して、それらの3次元再構成法がどのような特性を持ち、どのような制約が課せられているのかを認識して、利用してゆくことを目的として3次元可視化過程を述べる。

計測:目的に応じて様々な計測モダリティが存在する。計測対象量を、空間的な位置を区別して取得できるような計測方法である必要がある(例:図1)。MRIのように空間位置そのものではなく、測定空間全体を空間周波数の分布として捉え、そのFourier変換によって空間分布を得る手法もある。
輪郭抽出・領域抽出:可視化したい対象は、例えば組織表面や高活性部位などのように、測定された空間の中では周辺の組織などで取り囲まれている。対象とその周辺を区別して見せるために、その領域の境界をデータの中から抽出する必要がある。体表のように、組織と周辺の計測データに大きな差異がある場合は容易に境界を定義できる。これは体内と体外(空気)のデータ値間の中間の値を閾値として、単純にデータを振り分ければ、体内と体外を区別でき、体内データの最外側が体表となる。
しかし、腫瘍部位のように周りの組織とのデータの差が明確でなく、定量的な判別基準が無い場合は用手法、すなわち読影者の判断で輪郭を辿ることが必要になる(例:図2)。この作業には多くの時間を要することが多く、計算機の自動処理が出来ないために、検査中などで即時処理が必要とされる用途には使えない。3次元形状の輪郭(表面)を抽出するには、これらの2次元断層像で得られた輪郭を体軸方向(断層面の法線方向)に積み上げればよい。単純な形状であれば、この方法で表面を定義することができるが、彎曲部や分岐部では輪郭間の連続性が保てなくなる等の原因で、本来の形状が再現できない場合がある。そこで、3次元の輪郭抽出には境界点の立体的な連続性を保ちながら追跡するMarching Cubes法が頻用されている(http://mrlab.bk.tsukuba.ac.jp/mrlab/seitarou/mc.htmlなどを参照のこと)。Marching Cubes法で得られた立体表面は小さな三角形(三角パッチ)で覆われる(例:図3)。
Rendering(描画):簡便な立体表示方法として三角パッチの稜線のみを描画するwire frame法がある。立体感は失われるが、高速に処理、描画できるので、動きのある対象を表現する際にしばしば用いられる。これに対し、抽出された表面形状を立体的に見せるために、各三角パッチが観察者の視線方向から見て、どのような位置、向きに、どのような大きさに見えるかを計算し、図3のように描画する必要がある。ここでは、この三角パッチに至る視線上に別の表面が重なっていれば描画しない(陰面消去)。また、任意の方向に光源を仮定し、描画する立体に光を当てた場合に生じる影、すなわち各三角パッチからの反射光を計算し、反射光量に応じた明るさで描画する(shading、陰影付け)。図3において、実際に測定されたデータに基づくのは三角パッチの頂点(あるいはその近傍)であり、パッチ面自身はそれらを平面で補間したものである。より自然な形状に見せるための補間近似として、光線を反射する法線方向を頂点間で細かく補間して陰影付けを行うPhong shading法や、各頂点の濃淡値から中間点の明るさを線形補間するGouraud shading法、頂点間をより滑らかな関数で近似するspline補間法などが用いられる。上記のように物体の表面を定義して描画する手法をsurface renderingと呼ぶ。この手法では物体表面は立体的に見せることができるが、その内部構造を見せるには、最外面を半透明表示し、内部にある組織の表面を定義して描画すればよい。しかし、内部構造が複雑であれば処理量が多くなり、存在するデータすべてを表示することは不可能になる。
Volume rendering:これに対して、計測された3次元データ、すなわち濃淡点の3次元分布を「立体のまま」表示するのがvolume rendering法である。これは立体計測データを視線方向から見て、各計測点の値を足し合わせて、その視線方向に表示する明るさとする。これを全領域について計算すると、図5のような像が得られる。境界が鮮明でないが、内部構造を一度に提示でき、前処理が不要であるという特徴を持っている。

(参考URL)
 http://nis-lab.is.s.u-tokyo.ac.jp/~nis/CG/cgtxt/index2.htm
 http://pegasus.sfc.keio.ac.jp/~cgsoft/Release/Textbook/index.html など

図1 図2
図1.測定データ(例:冷凍切片像)図2.抽出された輪郭(例:大動脈弓)
図3・図4
図3.三角パッチで描画した立体像図4.Gouraud shadingを施した立体像
 図5
 図5.Volume renderingの例
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Last Updated 2005/8/5