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一塩基多型(SNP)と疾患感受性


上山 久雄(生化学第二講座) 

 ヒトゲノムの塩基配列が明らかになった.これからの研究方向の一つとして遺伝子多型と表現型との相関解析がある.
 ヒトの遺伝子には個人による塩基配列の違いが存在する.SNPは一塩基多型のこと(single nucleotide polymorphisms)で,スニップと発音する.SNPのデータはdbSNPに収集されているが,日本人ゲノムを対象としたJSNPも公開されているので,研究対象の遺伝子に関するSNPを把握することは簡単にできる.
 SNPはプロモーター(rSNP),イントロン(iSNP),あるいはコーディング領域(cSNP)にあったりするが,前2者は遺伝子産物の発現量,後者は遺伝子産物の活性が個人によって異なることに繋がる可能性がある.単一遺伝子遺伝病は特定の遺伝子にその責任を負わすことができるが,糖尿病や高血圧などには多くの因子(遺伝的な背景と環境因子)が絡んでおり,関係する遺伝子(疾患感受性遺伝子)を同定するのは容易でないと考えられる.しかし,ヒトゲノムに300万ヶ所以上あると予想されるSNPを用いて,そのような疾患感受性遺伝子を明らかにしようとするプロジェクトが,上記2疾患のほか,痴呆,癌,気管支喘息,慢性関節リウマチ,骨粗鬆症,統合失調症などで進行中である.
 疾患感受性遺伝子を捉まえる方法としては2つある.一つは,その疾患に関係ありそうな遺伝子をとりあげ(候補遺伝子と呼ぶ),そのSNPについて患者−対照研究(case-control study)を行うものである.例えば,アンギオテンシノーゲン遺伝子のプロモーター(-6)にはSNPがあり,(一部の)高血圧患者ではAであることが多いらしい.GがAになるとアンギオテンシノーゲンの発現量が増大するようである.しかしこのような方法では疾患感受性遺伝子を全部捕捉することは当然できない.
 関係する疾患感受性遺伝子を網羅するための方法としては,罹患同胞対解析(ノンパラメトリック解析)がある.それは,同一疾患を持った兄弟姉妹とその両親からなる家系を多数集め,全ゲノムにわたるSNPタイピングとその比較を行うものである.しかし現在はまだ疾患感受性遺伝子の存在する染色体領域の同定段階であり,遺伝子の特定までは進んでいない.2型糖尿病に関連するカルパイン10遺伝子や,慢性関節リウマチに関連するペプチジルアルギニン・デイミーゼ タイプ4遺伝子などは数少ない成功例である.カルパイン10はタンパク質分解酵素の一つであり,その遺伝子のイントロン3にSNPがあり,Gだと糖尿病感受性,Aだと抵抗性であることが判明した.しかしこれらも,それぞれに関係する多くの疾患感受性遺伝子の一つを捉まえたに過ぎない.
 本講義では以上のような話を中心に進めるが,大学院生のこれからの実際の研究に役立つよう,われわれが見出した,オプシン遺伝子プロモーターのSNPの研究も紹介する.

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Last Updated 2005/6/22