発癌関連遺伝子の探索と解析法
岡本 圭生(泌尿器科学)
川上 享弘(臨床検査部)
われわれは精巣癌、腎細胞癌について、その発生メカニズムの解明(原因癌遺伝子や癌抑制遺伝子の探索)や新規DNA マーカーの開発を目的として、臨床材料(癌組織、担癌患者血液)を用いた分子遺伝学的解析を行ってきた。
本講演の前半では、臨床材料(癌組織、担癌患者血液)をもちいた癌関連遺伝子の探索方法についてわれわれが行ってきた方法を概説し、後半では実験センター機器を用いたプロトコールと注意点について解説させていただく。
はじめにヒト臨床材料の採取、保存、解析については,ヘルシンキ宣言(ヒトを対象とする医学研究の倫理的原則)に基づいて、科学性、倫理性および医学的妥当性を担保することが必要であり、臨床材料の採取、保存、解析に関する同意書の作成・取得、研究内容についての倫理委員会による承認などの手順が前提となる。こういった条件をクリアしておくことも国際的な競争力を備えたトランスレーショナルリサーチの推進上重要である。
癌関連遺伝子の探索方法としては主に以下の項目について説明する予定であるが、われわれは腫瘍におけるDNAのメチル化解析に精力的に取り組んできた経緯もあり、特にこの点について詳しく解説する予定である。
1. マイクロサテライトマーカーをもちいたLOHの解析
2. セントロメアプローブを用いたFISHによる染色体異常、異数体の解析
3. 遺伝子の変異、多型のスクリーニングとしてSSCP法およびWAVE核酸フラグメント解析システムを用いた解析
4. DNA シーケンシングによる遺伝子の変異、多型の同定
5. DNA メチル化解析法
a. bisulfite genomic sequencing
b. MSP (methylation specific PCR)
最後に、近年の臨床材料をもちいた癌研究も他の領域同様、cDNAマイクロアレイを用いた網羅的遺伝子発現解析研究やハイスループット大規模SNP解析による遺伝子多型解析に代表されるように大量のサンプルを網羅的に解析してデータを出す巨大プロジェクト型解析に急速にシフトしているように思われる。
一方でわれわれの研究はこういった網羅的巨大プロジェクト型研究とは対局にあり、ひょっとすると“時代遅れ”と揶揄される家内工業的遺伝子研究と言えるかも知れない。
しかしながら、家内工業的なgene baseの探索的研究には、プロジェクト型研究にはない味わいと面白さがあると考えており、今回のお話が、これから研究を開始される方々の一助になれば幸いである。
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Last Updated 2005/8/4