荒木 信一(内科学講座 腎臓代謝内科)
人類遺伝学の進歩により、多くに疾患で遺伝素因つまり感受性遺伝子が、その発症・進展に関与していることが明らかとなってきた。また、単一の遺伝子でその発症が規定されている従来の遺伝病のみならず、糖尿病や高血圧などの疾患においても疾患感受性遺伝子の存在が考えられている。感受性遺伝子の同定は、将来の疾患への感受性を推定するのみならず、病因解明の有力な手段となりえるため重要である。
糖尿病の細小血管合併症の1つである糖尿病性腎症の発症・進展においても、遺伝素因の関与が考えられている。これまでの糖尿病性腎症に関する疫学研究・家系調査の成績において、腎症の発症が一部の糖尿病患者に限定されていること、腎症患者の家族内集積が認められることから、腎症の発症・進展に何らかの遺伝素因の存在が示唆されてきた。また、ゲノムを対象とした連鎖解析法により、腎症と連鎖を認める染色体領域の存在が報告され、疫学研究の成績より予想された腎症感受性遺伝子の存在が強く示唆されている。そのため、多くの研究施設により、腎症感受性遺伝子を同定するための研究が盛んにおこなわれており、そのアプローチ法も、case-control study、meta-analysis、家族内コントロールを用いた相関解析法である伝達不均衡テスト(transmission/disequilibrium test)、前向きコホート研究など多彩である。そこで本講義では、我々が実施してきた糖尿病性腎症感受性遺伝子研究を例として、ヒューマンサンプルの遺伝子解析について概説したい。
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Last Updated 2006/8/7