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遺伝情報解析の基礎―PCRとその応用

上山 久雄(生化学・分子生物学講座 分子病態生化学)

 PCRはpolymerase chain reaction(ポリメラーゼ連鎖反応)の略である。微量のDNAを、解析可能な量にまで試験管内で増やす方法である。対象のDNAは二本鎖のものが通常であるが、下に記すようにRNAも、逆転写反応(reverse transcription)を行っておけばPCRができる(RT-PCRという)。
 PCRの反応液には、対象のDNA(鋳型とよばれる)の他に、DNA合成の基質となる4種のdNTP(デオキシリボヌクレオシド三リン酸)、1組のプライマーDNA、耐熱性のDNAポリメラーゼなどが含まれており、保温温度を[94℃→55℃→72℃→]nと繰り返し変化させるだけで、鋳型の中の、プライマーDNAにはさまれた領域だけが増幅される。計算上は10回の繰り返し(n:サイクル)で約千倍、20回で約百万倍に増幅されるはずであるが、25〜30回程度のサイクルが普通である。
 PCRは、(i)遺伝子の多型あるいは変異の解析、(ii)クローニングと変異の導入、(iii)mRNA発現量の解析、などを目的として行われる。
 (i)の「遺伝子の多型あるいは変異の解析」は最もポピュラーなもので、疾患関連遺伝子の個別解析、個人識別(親子鑑定や犯罪捜査)、病原体の特定、遺伝子組み換え植物の混入の判定、などに用いられる。「増幅されるかどうか」で判定する場合もあれば、増幅された産物を制限酵素切断やシーケンシング、電気泳動などで解析して判定する場合もある。特定の遺伝子の端から端まで解析したいのであれば、ロングPCRでまず遺伝子全体を増幅し、その産物を鋳型にしたPCRを行うと楽である。ゲノムDNAからのロングPCRは30キロ塩基対近くまでが可能になっている。
 (ii)の「クローニングと変異の導入」は、興味ある遺伝子やcDNA(mRNAを上記の逆転写反応でDNAに変換したもの)をクローニング(プラスミドなどのベクターDNAに入れること)するときに行われるPCRである。公表されている塩基配列をもとに自らクローニングする場合や、クローンはあるが中身を別のベクターに移しかえたい場合(制限酵素の切断配列を両端に導入する)、クローンに塩基置換を導入したい場合(変異が入ったプライマーを用いたオーバーラップ伸長法)などである。いずれにしても、重要なのは耐熱性DNAポリメラーゼとして、3’→5’のエキソヌクレアーゼ活性を備えたものを使用することである。この活性を持たないポリメラーゼでは予期せぬ変異が入ってしまうことがある。
 (iii)の「mRNA発現量の解析」はリアルタイムPCRで行われている。リアルタイムPCR は、1サイクルごとに産物の量を蛍光で測定していくものであり、何サイクル目で産物ができ始めるかをみる。何コピーかが既知の二本鎖DNA(例えば10、100、1,000コピーなど)を鋳型にして標準曲線を作成し、それをもとにmRNA(実際にはそのcDNA)を定量するものである。二本鎖DNAに結合する蛍光色素を用いて産物量を測定する方法がポピュラーであるが、そのPCRにより正しい産物だけができていることを確認する必要がある。
 PCRには以上のように様々な用途がある。この単純な方法を駆使して立派な成果をあげて頂きたい。


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Last Updated 2008/8/4