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実験動物概論及び動物実験法


山本 好男  法医学講座 

1.実験動物及び動物実験に関する基本的考え

 1.実験動物と動物実験
 実験用動物とは、試験(未知の性質の検索)、研究(仮説の検証、検定、検査)のみならず教育資料(知識、技術等の伝達)として、また生物学的製剤などの製造に重要であるとして、合目的に繁殖、生産される動物をいう。
 実験に使われる動物には、由来や素性が明らかで、しかも遺伝的あるいは微生物学的統御の行われているものから、由来や素性の不明なものまで様々なものが含まれる。系統発生的にみても、サル類(霊長目)を頂点として、両生類、魚類、昆虫類、さらに下等なものまで、広範囲の動物種が実験用として使用されている(表1、図1)。

表1. 実験用動物
内 容主な動物種
 実験動物
Laboratory animals
 研究(検査、検定、診断、教育、製造を含めて)に重要であるとして、その目的のために飼い慣らされ繁殖・生産される動物
無脊椎動物:ショウジョウバエ、ゴキブリ
魚類:メダカ
両生類:アフリカツメガエル
鳥類:ウズラ、ニワトリ、ハト
哺乳類:マウス、ラット、ハムスター類、モルモット
(ウサギ、イヌ、ネコ、ブタ、ヤギ)
 家 畜
Domestic animals
 人類社会に重要であるとして、飼い慣らされ繁殖・生産される動物
 研究用として使うために必要な統御は行われていない
無脊椎動物:カイコ
魚類:ニジマス、コイ、メダカ、ウナギ、ハマチ
鳥類:ニワトリ、ハト、アヒル、ガチョウ
哺乳類:ウサギ、イヌ、ネコ、ブタ、ヒツジ、ヤギ
 野生動物
Animals obtained from nature
 自然界から捕獲した動物
 人為的な繁殖・生産は行われていない
無脊椎動物:カイコ
魚類:ニジマス、コイ、メダカ、ウナギ、ハマチ
鳥類:ニワトリ、ハト、アヒル、ガチョウ
哺乳類:ウサギ、イヌ、ネコ、ブタ、ヒツジ、ヤギ

 A:実験用動物
(Experimental animals)
1)実験動物(Laboratory animals)
2)家畜(Domestic animals):産業用・社会用
3)野生動物(Animal obtained from nature)

図1. 実験用動物の分類
          A:広義の実験動物    1):狭義の実験動物
     

 2.動物実験
 動物実験とは、動物を使って行う実験(科学上の用に供すること)であり、実験処置によって動物が示す反応を観察し、その反応を通して加えた実験処置がヒトや他の動物種にどのような効果をもたらすかを推測することにある。
 動物実験では動物反応の再現性が重視される。すなわち、個体や場所、時間(年月)による違いが殆どなく、反復実験において同じ成績が得られることである。そのためには、動物の遺伝的構成や環境が明らかにされていることが必要であり、動物自身及び環境に対して何らかの統御が加えられる。これにより得られた動物が実験動物である。
 このように実験動物は遺伝的背景においても、育成環境においても厳重に統御されたものである。そして実験成績を読み誤らないようにするためには、実験動物、家畜、野生動物のどの部類の動物を使用したか(それらの動物の品質はどうであったか)をはっきり理解しておく必要がある。
 動物実験では、その動物とヒトあるいは他動物種との比較により研究するが、それらの動物の類似した部分(細胞、組織などの形態や機能)を見つけて検討(部分的比較)されることが多い。ヒトを動物分類学上の1種属として取り上げ、そのヒトと多種動物とを比較するわけで、これをBiomedical Scienceといい、そのための試験研究材料として実験動物が用いられる。

図2. RussellとBurchの演出型説
遺伝子型
(Genotype)
 
発育環境
(Developmental environment)
表現型
(Phenotype)
 
近隣環境
(Proximate environment)
演出型
(Dramatype)

 

 図2にRussellとBurchの演出型の決定についての模式図を示す。そこでは実験に使う動物の生体がつくられるまでの過程として、3つの型(遺伝子型、表現型、演出型)と2つの環境(発育環境、近隣環境)が考えられている。すなわち、動物は両親から受け継いだ遺伝子に基づいて発生、発育、成長する。
 動物の形態とか生理的性状などの形質について検討するときは表現型という用語が、また遺伝子の検討には遺伝子型(生物の遺伝子組成)という用語がそれぞれ使われる。この表現型は遺伝子型に発育環境の影響が加わって現れるものであり、この表現型に近隣環境が加わって演出型が決定する。ここにいう発育環境は、受精から出生までの母胎環境のみならず、哺育中の環境(この時期は単に母親からの栄養を受けるだけでなく、すべての点で母親の擁護のもとにある)を含む。そして近隣環境とはその動物の育成環境ならびに実験環境をいう。

2.実験動物の分類と区分

 1.遺伝子統御による区分
1)種とは:互いに交配可能でかつ繁殖力のある子孫を作りうる同じ種類の動物をいう(生物界の階層を考える上で基本的な単位として使われる用語)。
2)品種とは:形質がある程度整一な動物群で、世代を重ねてもその整一性を維持できるものをいう。
 内種とは:見分けやすい毛色とか羽色とかといった遺伝的形質で、品種の中をさらに細分類したものである。
3)系統とは:計画的な交配方法で維持されている祖先の明らかな動物群をいう(一般には何らかの特徴を備えている)。系統という用語は家畜でも使われるが、そこでは実験動物のような厳格な意味ではなく、血族とか家系などの特定祖先のつながりの意味にも使われる。なお、純系という用語があるが、この用語は近交系との区別が紛らわしいので、実験動物の分野では殆ど使われていない。

 種は生物分類学上の基準単位であり、たとえばニワトリ(Gallus gallus)、ウサギ(Oryctolagas cuniculus)およびネコ(Felis catus)はそれぞれ種に位置づけられる。種の中の分類として、家畜では品種(内種)という用語がよく使われる。これは分類学上の単位ではないが、実用的形質に関して用いられ「他集団と区別されるが、集団内では区別されない」一定の遺伝的特性を有する集団に対して使われている。

 実験に転用される家畜の品種・内種としては、わが国では次のようなものがある。

ウサギ:日本白色種、ニュージーランドホワイト種、ダッチ種
イヌ :ビーグル種
ネコ :ニホンネコ、シャムネコ
ニワトリ:白色レグホン、白色コーニッシュ、黄斑プリマスロック
ブタ :ランドレース、ヨークシャー

 わが国で流通している実験用マウスは、近交系および非近交系をあわせると80系統以上あり、ラットも40系統以上に及ぶ。一方、実験動物化の遅れているウサギ、ネコ、イヌ、ニワトリならびに利用頻度の低いハムスター類、ブタ、ヤギなどの系統はきわめて少ない。マウス、ラットの多くの系統は疾患モデルとして使われており、今後も多くの形質が遺伝的に固定化されることが望まれている。

 実験用動物のうち、実験動物についてはさらに遺伝子統御の面から近交系、ミュータント系、クロースドコロニー、交雑群、雑動物(遺伝的に統御のなされていないもの)に分類される。表2に実験動物の遺伝的統御による分類を示した。

 近交系:20世代以上の兄妹交配が続けられているもので、血縁係数(R=99.6%)、近交係数(F=98.6%)と遺伝子が均一化されている。そのほか特殊な近交系として、リコンビナント近交系およびコンジェニック系があるが、前者は2つの近交系を交配して、その次の世代から再び兄妹交配を20世代以上継続しているものである。後者は特定の遺伝的背景に別の遺伝子を導入させた系統である。

 ミュータント系:特殊な突然変異遺伝子を保有しているもの、あるいは遺伝子記号を明示できなくとも選抜淘汰によって特定の遺伝形質を維持することのできるものである。

 クローズドコロニー:長期間にわたり他からの遺伝子を移入のない状態で維持されている系統で、これには近交系由来のものとそうでないものとがある。後者については次の事柄に留意すること。 1)集団を閉鎖して5年以上経過していること。
2)集団内で隔離が起きないように注意(循環交配方式などで繁殖)。
3)集団の大きさを常時50以上に保つこと。
4)繁殖性以外には特別な形質に関する選抜を行わないこと。

 交雑群:近交系、近交系とクローズドコロニー間、あるいはクローズドコロニー間の交雑第1代(F1)、同第2代あるいは戻し交配第1代などが含まれる。近交系間のF1は同じ系統の組み合わせであれば、その遺伝子型はすべて同じと考えられ、しかも交雑によるヘテロ性のために雑種強勢(活力強く、形質・反応の変異が小さいことなど)が期待されることから実験に多用されている。

表2. 実験動物の遺伝統御による分類
規 定
近交系 Inbred strain  兄妹交配または親子交配を20世代以上継続している系統
ミュータント系 Mutant strain  遺伝子記号をもって示し得るような遺伝子型を特性としている系統、及び遺伝子記号を明示し得なくとも、淘汰選抜によって特定の形質を維持することのできる系統
クローズドコロニー Closed colony  5年以上外部から種動物を導入することなく、一定の集団のみで繁殖を続け、常時実験供試動物の生産を行っている群
交雑群 Hybrid  系統間の雑種
雑動物 Mongrel  遺伝的コントロールが行われていない動物

 2.微生物統御による区分
 微生物統御によって、無菌動物、ノトバイオート、SPF動物に分類され、コンベンショナル動物(微生物統御がなされていないもの)とは明確に区分される(表3)。  無菌動物は、検出可能な微生物がいない以外に、他の動物と比較して盲腸容積が著しく大きく、また寿命が長いなどの特徴を有する。
 無菌動物に特定の微生物を定着させた動物がノトバイオートであり、無菌動物及びノトバイオートは、外部とは微生物学的に隔離された飼育装置内で飼育される。
 SPF動物は、特に指定された病原微生物や寄生虫が存在しない清浄な動物であるが、指定以外の微生物・寄生虫は必ずしもフリーではない。
 近年、普通動物とSPF動物の間にクリーン動物またはクリーンコンベンショナル動物と称される動物が市販されているが、これらの動物の多くはSPF動物を種親としており、飼育は清浄な環境で行われている。

表3. 微生物統御からみた実験動物の分類
区 分定 義微生物状態作出方法維持方式
 無菌動物
Germfree animals(GF)
 封鎖方式・無菌処置を用いて得られた検出しうる全ての微生物・寄生虫を持たない動物
 検出可能な微生物はいない
 帝王切開又は子宮切断由来
 アイソレーターシステム
 ノトバイオート動物
Gnotobiote animals(GB)
 もっている微生物叢の全てが明確に知られ特殊に飼育された動物
 もっている微生物が明確である
 無菌動物に既知の微生物を定着させる
 アイソレーターシステム
 SPF動物
Specific pathogen free animals(SPF)
 特に指定された微生物・寄生虫のいない動物(指定以外は必ずしもフリーではない)
 もっていない微生物が明確である
 無菌動物やノトバイオート動物に微生物を自然定着させる
 バリアーシステム
 コンベンショナル動物
Conventional animals(CV)
 ふつうの動物
 微生物叢が不明瞭
 ふつうの環境で繁殖維持したもの
 オープンシステム


3.実験動物の生産から供給まで

 1.実験動物の生産・供給
 生産:実験動物は計画的な生産が可能でなくてはならない。生産の規模にもよるが、下記の事項に十分注意して行なわれている。
1)増殖用の動物種の入手または分与の際には、その選抜、繁殖・交配方法、形質検定とその記録が重視される。通常は少数匹をもとにして、繁殖、育成および維持が行われる。
2)近交系の生産に当たっては、系統維持集団、増殖用コロニー、生産ストック用、供給用動物群の方向へ、遺伝子が常に流れるように考慮されている。種動物の更新、補充に留意し、分娩、哺育(生産効率の向上、哺育仔数の調整)および離乳の適正化を図っている。

 品質検査と供給:生産動物については、品質検査(遺伝学的および微生物学的モニタリング)ならびに必要に応じて特性のチェックを行い、その上で供給されている。
 使用者側で生産者から得ておく情報
1)系統名:近交系であれば亜型記号、必要に応じて遺伝的モニタリング
2)生産方式:交配方法、飼料、床じき、飼育器具
3)繁殖成績
4)微生物モニタリング成績(または微生物学的品質):SPF、コンベンショナルなどの区別
5)ワクチン接種または治療の有無とその内容
6)その他実験成績に影響を及ぼす可能性のある事項
 輸送:近距離の場合から海外などの遠距離の場合までいろいろあるが、輸送による動物への影響は最小限に押さえる努力が払われている。動物種、匹数、輸送距離および時間などに応じて適切な輸送方法(輸送箱、輸送車、輸送中の給餌・給水、床敷)の選択がなされている。また輸送中および到着時における動物の健康状態には注意を払い、動物保護・福祉の立場からも輸送時の動物の扱いは慎重に行われている。輸送する動物の微生物学的品質とも関係するが、不顕性感染している場合には発症する恐れがあり、感染動物と同様に他動物やヒトへの感染源となる可能性があるので注意が必要である。

 2.受け入れ、検疫、馴化
1)動物の受け入れに際し、それらの動物が発注どうりかの確認をするとともに、健康状態を観察する。なお到着後はできるだけ早く、必要に応じて給餌、給水を行い、隔離された所定の検疫場所に収容する。
2)検疫は動物を受け入れる際の必須事項である。検疫内容は対象とする動物によって異なるが、SPF動物などでは生産者側の検疫証明書がある場合省略することも可能である。
3)馴化は動物を移動したりした後に必要とされる作業で、施設外からの移動の際には検疫期間がこれに充当される場合が少なくない。この期間は、輸送の影響を取り除くだけでなく、飼育環境に順応させるのにも役立っている。一般に移動前後の環境変化の度合いが著しい場合には、馴化に長期間を要する。

 3.動物の飼育管理と取り扱い
 動物の維持、生産あるいは使用の場における飼育管理および取り扱いは適正でなければならない。適正とは、科学的であると同時に倫理的(動物福祉と代替)でなければならない。すなわち、できるだけ一定の環境下で動物が正常に発育、成熟、行動でき、肉体的な健全かつ安寧であることを心がけねばばならない。
 実験動物の飼育は、通常閉鎖された人工環境下で行われ、可能な限り一定の環境で維持されている。実験動物の環境要因は、狭義の環境、栄養ならびに生物の3つに分けられる。
1)狭義の環境因子:住居因子(動物室、ケージ、床敷き、その他)、気候および物理化学的因子(温度、湿度、風速、気圧、換気、照明、騒音、臭気、その他)が挙げられる。環境に関する主要な因子については、表4に示したように一応の目標値が設けられている。

表4. 一般動物室の環境調節
項 目目標値備 考
温 度21〜27℃動物種により多少異なる
湿 度45〜55% 
気流速度10から25cm/sec直接の風当たりを避ける
換 気6回/hr.オールフレッシュ10〜12回/hrが望ましい
照 明150〜300 lx人工照明、一定時間
騒 音40〜50 dB動物のいないとき
臭 気アンモニア20ppm以下 

 これらは飼育室全体を対象としたものであり、ケージの中の環境を示したものではない。これらの条件は機械設備によって制御されるものが多く、設定通りの環境が維持されているかどうかを常に点検することが重要である。
2)栄養因子:飼料(栄養要求など)と飲水。
3)生物因子:同居動物、異種動物としてのヒト(飼育者や実験者)あるいは微生物などを統御しなければならない。従ってヒトと動物との接触時間や動物の取り扱い方(一定の適正方法の採用と徹底)にも十分な配慮が払われなければならない。

4.適正な動物実験の計画および実施

 1.実験成績の再現性
 実験条件を十分に整えて実施しないと、再現性のある成績はなかなか得られない。特に動物実験に関しては、実験に影響を及ぼす要因が多く存在するので、条件設定は非常に難しい。実験では、供試動物の素性や品質あるいは飼育環境などを、できるだけ同一またはそれに近い条件に設定維持して、しかも同じ程度の技術レベルの実験者によって行われることが原則として要望される。

 2.実験中の動物の飼育管理
 動物実験は原則として、実験毎にそれぞれの飼育室を準備し、供試動物を収容して実験相互の影響を避けて行う。実験中に限らず、動物種別の分離飼育は厳守されるべきであろう。できれば同じ動物種でも、由来を異にするものは、同様に分離飼育するのが望ましい。

 3.動物実験の適正実施要項
 動物実験を実施するに当たって留意すべき基本事項のうち、特に実験動物に関わる重要事項は以下の通りである。
1)試験目的に適合する良質な実験動物を選定すること。
2)適正な飼育管理を行うこと。
3)実験計画に従って分担事項の確認をすること。
4)動物個体を取り違えないようにすること。
5)実験結果に影響を及ぼすと考えられる事項については詳細に記録し、データの解析の際などに利用できるようにしておくこと。
なお表5に動物実験の際に記録しておく事項について示す。

表5. 動物実験時の必要記録事項
動物自身について  系統、年齢、性、体重、由来、輸送方法、入手から実験に使うまでの期間とその期間における取り扱い、入手数とそのうちから実験に選んだ数ならびに選び方、健康状態など
環境について  実験室(BS,SPFなど)、温度、湿度、換気など、照明時間・時期、ケージ材質・サイズ・収容数、床敷き、飼料と飲水、給餌・給水方法、清掃方法など
実験について  実験年月日、処置を行った時間、動物取扱時刻・方法、実験方法、淘汰の方法


5.実験動物の開発とヒトへの外挿

 1.ヒトへの外挿
 外挿:ある動物で得られた知見に基づいて、ヒトまたは他種の動物に当てはめることである。動物実験成績(反応)に動物種差があることはよく知られており、特にヒトと他の動物との間における反応の差は大きいといわれている。各種実験動物で得られた成績をヒトに外挿するためには、実験動物に部分的類似性を利用するものと、動物種について検索し、系統発生的にみてヒトへ外挿を行おうとするものである。

 2.実験動物の開発、改良
 野生動物や家畜の実験動物化(実験動物の開発)、さらには開発された実験動物の遺伝的純化、またはその特性の強化(実験動物の改良)を行うことが必要とされる。実験動物化のためには、まず動物の飼育および繁殖が可能でなくてはならない。そして研究目的に適した特性の探索が行われ、特性の発見に続いてそれら特性を有する新たな系統の育成(近交系化など)が行われる。遺伝的な変わりもの(遺伝変異)にも注目し、特にヒトの病気に似たものを動物に見つけ、あるいは作り、それが利用される。いわゆる疾患モデルの作成、利用である。なお実験動物化には動物の計画生産が必須であるのはいうまでもない。

6.動物福祉と代替

1.動物福祉に関する基本的な考え方
 動物実験が医学、生物学などに欠くべからざるものであることは周知の通りである。現代の人間生活は実験動物および動物実験の恩恵に浴し、動物の尊い犠牲に支えられているといっても過言ではなく、実験動物はヒトにとってきわめて重要な存在である。これらの動物は野生動物のように天寿を全うすることはないが、だからといって動物実験を全く認めないというのは正しくない。動物愛護や動物福祉に関する感情や倫理を野生動物、産業家畜、愛玩動物および実験動物のすべてに平等に適用できないが、それぞれに合った基準を設けて取り扱う必要がある。

2.動物の愛護および福祉の現状
 動物の生命を尊重し、無用の苦痛を与えたり、無駄に生命を奪うことなくかつ科学的に十分配慮された条件のもとに、動物は飼育され、実験に供されなければならない。すなわち、倫理的かつ科学的でなくてはならず、一方への偏りは許されない。法律、基準あるいは指針として次のものがある。
1)動物の保護及び管理に関する法律「昭和48年10月1日公布、同49年4月1日施行」
2)実験動物の使用及び保管に関する基準「昭和55年3月27日告示:第6号」
3)滋賀医科大学動物実験指針

 経緯:日本で初めて動物の保護に関する法律、「動物の保護及び管理に関する法律」が交付された(法律第105号1973年10月1日交付、1974年4月施行)。
 これを受けてわが国初の実験動物に対する基準として、1980年3月27日「実験動物の飼養及び保管等に関する基準」を定めた。これは動物実験に関する事項について規定。
 日本学術会議は「動物実験ガイドラインの策定について」の勧告を1980年11月5日総理大臣に提出。内容は、「全ての研究者が科学的かつ倫理的な動物実験を行うように・・」。
 文部省は学術国際局長名で「大学等における動物実験について」を通知した。
 日本実験動物学会は1987年に「動物実験に関する指針」を機関誌に掲載し、各研究機関における動物実験指針の制定を促した。これを受け、本学においても科学的にはもとより動物の福祉の観点からも適正な動物実験の実施を促すことを目的に動物実験指針が制定され、実験計画の立案、実験操作、実験終了後の処理などについて定められている(この指針は本学において行われる全ての動物実験に適用される)。
 さらに1995年7月4日、総理府は「動物の処分方法に関する指針」を告示(総理府告示第40号)した。


 以上、動物実験を行うに当たり理解しておいて欲しい実験動物学の概論について記した。特別講習会当日はこれに加えて、動物実験の基本手技、実験法について解説する予定である。

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Last Updated 2005/6/22