TOPページに戻るサイト内を検索するサイトマップリンク
機器部門RI部門配置図セミナー産学連携学内向け
過去のセミナー支援センターセミナー支援センター特別講習会支援センターテクニカルセミナー支援センター交流会

実験実習機器センターの機器を利用した遺伝子実験


礒野 高敬  実験実習機器センター

 遺伝子を取り扱う実験は、個々の研究室の機器を使って十分に行うことができる。実際のところ、私も、センターに赴任するまでは、センターの機器をそれほど使わなくてもやってこれた。しかし、赴任後、センターの機器を活用しようと使い始めると、なかなかよく整っていると感じている。そこで、本講義では、遺伝子実験を行う過程で、実験実習機器センターの機器をどのように利用したらよいかの参考にしていただくために、ファージディスプレイ法でクローニングした遺伝子配列を、GST発現システムに導入して融合蛋白を精製するという赴任後の仕事を中心に、実験実習機器センターの機器をどのように利用してきたかを紹介する。併せて、自己流の個々の実験手技のマニュアルを紹介する。

I. ファージディスプレイライブラリーの作製
 Dr. Crameriより供与された、ファージディスプレイ用ベクターpJuFoのBglII部位に、成人T細胞白血病ウイルスI型(HTLV-I)ゲノム断片(〜300bp)をライゲーション反応で組み込んだ。そして、遺伝子工学実験室に備え付けの遺伝子導入装置を用いて、コンピテント化した大腸菌JM109に導入し、5X10,000個の独立したコロニーからなるファージディスプレイライブラリーを作製した。

 #ベクターの制限酵素切断:切れ残りがないように2回行っている。
この処理により、インサートの入っていないコロニーの数を減らせる。

 #切断断片のアガロースゲルからの回収:β-agaraseを用いて行った。

 #コンピテントセル:市販の安価なもの(5X100,000,000cfu/μg)を使用した。
 HTLV-Iゲノムライブラリー作製の場合、100ngのベクターDNA量で6X10,000個のコロニーが得られた。
 T-cell cDNAライブラリー作製の場合、100ngのベクターDNA量で1X1,000,000個のコロニーが得られた。
 T-cell cDNAライブラリー作製の際、ハンドメードのコンピテントセルを用いた場合、100ngのベクターDNA量で5X1,000,000個のコロニーが得られた。
 なお、すべてのライブラリーにおいて、80%以上は、インサートが入っていた。(方法は、後述)

 *エレクトロポーレーションのプロトコール
  1. 塩類を除くため、ライゲーション反応液をエタ沈する。
  2. 滅菌水ではとけにくいので、0.1 X TEに溶かしてDNA溶液を調製する。
  3. 2mm幅のキュベット・チェンバー・DNA溶液を氷の中で冷やす。
  4. SOC培地1mlを、ファルコンチューブに入れて、37度のインキュベーターに入れておく。
  5. 凍結保存したコンピテントセルを、氷中でゆっくりと溶かす。
  6. ジーンパルサーを、25μF, 200Ω, 2.5kVに設定する。
  7. DNA溶液1-2μlとコンピテントセル40μlを、エッペンチューブ中で、指の先で軽くはじいて混ぜる。
  8. コンピテントセルを1分間氷中に静置している間に、パスツールピペットにゴムキャップを付けて、SOC培地入りファルコンチューブのふたを開けておく。
  9. キュベットを氷中からだして、パスツールピペットでコンピテントセルを、キュベットの底に広がるように入れる。キュベットを台の上でトントンして、液が底に広がっていることを確認する。
  10. パスツールピペットをファルコンチューブに突っ込み、培地を吸っておく。
  11. キュベットのまわりの水分をキムワイプでふき取り、チェンバーにセットしてパルスする。
  12. すばやくチェンバーからキュベットを取り出し、37度のSOC培地1mlを、パスツールピペットでチェンバーに加える。パスツールピペットで2、3回SOC培地を出し入れして菌体を混ぜて、すばやくファルコンチューブに移す。
  13. 37度で1時間激しく振盪しながら培養した後、プレーティングする。

II. ファージの選別
 ヒトT細胞株Molt4に、結合するファージを選別し、結合したファージを増殖させて、また選別するということを5回繰り返した。

 #ファージの増殖
 ファージをファージミドにしてから、ファージミドを組み込んだ大腸菌を直接液体培地で増やすと、特定の菌が選択的に増える可能性がある。それを防ぐため、一度プレート上で1個1個独立したコロニーにしている。それから、プレートに培地を加えて菌液をつくり、適当な濃度まで培養して、ヘルパーファージをかけて増殖させている。この実験では、30度で培養している。37度では、組み込まれたペプチド部分が正常なコンフォメーションをとらない場合がある。

III. 選別されたファージに組み込まれたHTLV-Iゲノム断片の塩基配列の解析
 岡本技官に依頼し、蛋白工学実験室に備え付けのDNA合成装置で、pJuFoベクター特異的蛍光プライマーを作製した。このプライマーを用いて、洲崎技官に依頼し、蛋白工学実験室に備え付けのDNAシーケンサーで、選別されたファージに組み込まれたHTLV-Iゲノム断片の塩基配列を決定した。選別されたファージに共通して組み込まれている領域を見つけた。

 #インサートが組み込まれているかのPCRによるチェック
 シーケンスを行う前に、そのコロニーにインサートが入っているかのチェックをした方が無駄がなくてよい。拾うコロニー数は、微量遠心機にかかる本数及びミニゲルで流せるレーン数から、16個が無駄がなくて良い。インサート部分を、ベクターのシークエンス用プライマーでPCRで増幅して、断片の大きさで確認する。

 *コロニーからのPCR(菌量が多いと、PCR反応を阻害するので希釈する。)
  1. 滅菌した爪楊枝でコロニーをとり、新しいプレートに継代した後、50μlの滅菌水に楊枝を入れて菌をサスペンドする。
  2. 菌液を100度, 3 min 煮沸した後、氷中に入れる。
  3. PCR反応液量の2%(40%以下)の試料を加えて、PCRを行う。
  4. プレートは、37度で培養する。次の実験に用いる。

 #2本鎖DNAのシーケンシング
 プラスミドをFlexiPrep Kitで回収した後、エタ沈をしてから、DNAを滅菌水に溶かして試料を作っている。DNA量を分光分析室の微量分光光度計で定量して、2μg / 3kbpの割合になるようにサーモシケナーゼ反応に加えている。

IV. pGEX発現ベクターへの導入遺伝子の組込み
 上記の共通塩基配列にコードされた約30残基のアミノ酸からなるポリペプチドが発現されるようにデザインされたプライマーを作製した。HTLV-Iゲノムから共通配列部分を、PCRで増幅し、制限酵素処理した後、ライゲース反応でpGEX-2T発現ベクターのBamHI-EcoRI部位へ組み込んだ。そして、遺伝子導入装置を用いて、コンピテント化した大腸菌JM109に導入した。DNAシーケンサーで、導入遺伝子が目的通りにpGEX発現ベクターに組み込まれていることを確認した。

 #ベクターの制限酵素切断:切れ残りがないように2回行った後、β-agaraseを用いてアガロースゲルからの回収し、更に、BamHI-EcoRI部位の間にあるSmaIサイトで切断してライゲース反応に供している。

 #インサートの方も、β-agaraseを用いてアガロースゲルからの回収し、ベクター等の低分子を除いておく必要がある。

V. GST融合蛋白質の精製
 組換え体大腸菌を、LB培地でA600=0.5なるまで培養した後、IPTGを添加してGST融合蛋白質の発現を誘導した。回収した菌をソニケーションにより破壊した後、可溶性蛋白質を遠心により分離した。この上清に、Glutathione Sepharose 4Bビーズを添加して、洗浄後、グルタチオンを加えてGST融合蛋白質を溶出した。SDS-PAGEで分析し、GST融合蛋白質の純度は、90%以上であることを確認した。GST融合蛋白質の精製過程において、しばしば混入するDnaKにコードされたヒートショック蛋白質を、分光分析室に備え付けの微量精製システムSMARTシステムでMonoQカラムを用いて除去して、GST融合蛋白質をほぼ100%の純度にした。現在、この精製蛋白をウサギに免疫し、作製した抗体を用いて目的のポリペプチドと標的T細胞との相互作用を解析している。

 #融合蛋白質の大量発現
 予備実験を、50〜100 mlのスケールで行った後、液量を多くしてスケールアップすると収量が落ちる場合があるので、予備実験のスケールの液量で本数を増やすことによって、融合蛋白質の量を増やしている。
 なお、今回は幸運にも、融合蛋白質は不溶性にならなかったが、不溶性になる場合がある。

 #SMARTシステムにインジェクトする試料は、装置及びカラムを詰まらせないように必ずフィルトレーションしておくこと。

前へ 先頭へ
Copyright (C) Central Research Laboratory. All right reserved.since 1996/2/1

Last Updated 2005/8/18