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フローサイトメーターFACScanの使用法


生化学第二講座 前田 利長

1. はじめに
1-1. フローサイトメトリー(Flow Cytometory)とは
 細胞浮遊液を高速で流して測定し、一個一個の細胞を解析研究する手法のこと
・フローサイトメーター(Flow Cytometer)= FACScan
 - フローサイトメトリーで使う細胞解析用の装置
・セルソーター(Cell Sorter)
 - フローサイトメトリーで使う細胞解析および細胞分離装置
1-2. フローサイトメーターで何ができるか?

  1. 細胞一個一個の相対的大きさや形状、内部構造の違いを短時間で解析できる。
  2. 蛍光標識を行うことによって蛍光強度や蛍光の種類を測定し、細胞の同定や細胞群を構成する種々の細胞の存在比を短時間で解析できる。
  3. DNAやタンパク質、カルシウムなどを定量的に染色するいくつかの蛍光色素を同時に用いることによって、細胞内での存在比を解析することができる。
1-3. フローサイトメーターの原理
 フローセル内を流れる細胞にレーザー光をあて、細胞からの前方散乱光(FSC)、側方散乱光(SSC)、3つの蛍光の5つのパラメータを測定し、細胞の特性を決める。
・FSC ( Forward scatter = 前方散乱光) =細胞の大きさを示す。
 - 細胞の表面積に散乱強度が比例する。
 - レーザー光軸に対し前方で検出する。

・SSC (Side scatter = 側方散乱光) =顆粒、または、細胞内構造を示す。
 - 細胞の顆粒や構造状態に散乱光強度が比例する。
 - レーザー光軸に対し90度の角度で検出する。

・FL1、FL2、FL3 (Fluorecence=蛍光強度)= 蛍光強度を示す。
 - FACScan はアルゴンレーザー1基のため2色解析を行うことが多い。

1-4. タンパク質に結合させて使える蛍光色素
FITC:フルオレセインイソシアネート
  励起光 488nm  → 蛍光は緑(530nm)  − FL1で検出

PE:フィコエリスリン
  励起光 488nm  → 蛍光は黄橙(585nm)  − FL2で検出

PerCP:ペリオジニン クロロフィル プロテイン
  励起光 488nm  → 蛍光は赤(680nm)  − FL3で検出
  

1-5. 蛍光強度
 一つの細胞に結合する蛍光標識抗体 は、その細胞の表面抗原の量と比例することから、蛍光強度と表面抗原の量が比例する。

  

2. 抗体による細胞表面抗原の染色
2-1. 直接免疫蛍光染色
 蛍光色素FITC やPE と結合しているモノクローナル抗体を用いて細胞集団を処理し、細胞表面の特異的な抗原を持つ細胞を検出する方法。

  

2-2. 間接免疫蛍光染色
 蛍光標識抗体がないときや蛍光発色量を増幅する時に使う方法。細胞表面抗原の絶対数を算出するには不向きだが、細胞集団間での相対的な量を出すことができる。

2-2-1. ビオチン-アビジン法

細胞をビオチン結合モノクローナル抗体と反応した後、蛍光色素標識アビジンと反応させる。


2-2-2. 2重抗体法

細胞を蛍光標識していないモノクローナル抗体(1次抗体と呼ぶ)と反応させた後、蛍光標識した2次抗体(1次抗体と反応するもの)と反応させる。


【実例1】

 細胞表面に分布するインテグリンを2重抗体法を用いて染色する。

  1. 浮遊細胞懸濁液、または付着細胞をトリプシン/EDTA 処理で浮遊させる。
  2. 300 x g、室温で 5 min. 遠心する。
  3. 細胞を2 % FCS / 0.1 % NaN3 / PBS で懸濁する。
  4. 300 x g、室温で 5 min. 遠心する。
  5. (3.)と(4.)を繰り返し、合計2回細胞を洗浄する。
  6. 2 x 106 cells / ml になるように細胞を2 % FCS / 0.1 % NaN3 / PBS に懸濁する。
  7. 100μl づつエッペン管に分注する。
  8. モノクローナル抗体を十分量加える。
  9. 氷中で 20 〜 30 min. 放置する。
  10. 細胞を2 % FCS / 0.1 % NaN3 / PBS で懸濁する。
  11. 300 x g、室温で 5 min. 遠心する。
  12. (10.)と(11.)を繰り返し、合計2回細胞を洗浄する。
  13. FITC 標識の2次抗体(100 倍希釈)を100μl 加える。
  14. 氷中で 20 〜 30 min. 放置する。
  15. 細胞を2 % FCS / 0.1 % NaN3 / PBS で懸濁する。
  16. 300 x g、室温で 5 min. 遠心する。
  17. (15.)と(16.)を繰り返し、合計2回細胞を洗浄する。
  18. 0.5 〜 1 ml の2 % FCS / 0.1 % NaN3 / PBS に懸濁する。
  19. 氷中で遮光保存し、2時間以内に測定する。または、0.5 % パラホルムアルデヒドで固定し、氷中で遮光保存し24時間以内に測定する。
 血液検体の場合の試料調整法

  1. EDTA 採取した末梢血、骨髄血、その他の生体試料を用意する。
  2. Ficoll - Conray などによる比重遠心法で単核細胞画分を分離する。
  3. PBS で2回洗浄する。
  4. 2 x 106 cells / ml になるように2 % FCS / 0.1 % NaN3 / PBS に懸濁する。

    以下、上記実例の(7.)に続く。
    直接免疫蛍光染色を行う場合は、上記実例の(13.) 〜 (17.)を除く。

3. 蛍光色素による直接染色
 細胞成分を直接色素で染色する場合で、(1) DNAと結合して蛍光を発する色素、(2) RNAと結合して蛍光を発する色素、(3) Ca2+ とキレートして蛍光を発する色素、(4) 細胞内pH 指示色素、(5) 酵素による分解で蛍光色素を遊離する基質などが存在する。しかし、アルゴンレーザー(励起光488 nm)のみを搭載したFACScanでは使用できる色素が限られる。

3-1. DNAと結合する色素
PI:プロピジウム イオジド
  励起光 490nm  → 発色蛍光 610 nm  − FL2で検出

EB:エチジウム ブロマイド
  励起光 480nm  → 発色蛍光 610 nm  − FL2で検出

AO:アクリジンオレンジ
  励起光 488nm  → 発色蛍光 530 nm  − FL1で検出?

 細胞を固定し、可溶化剤で細胞膜などを壊し、RNAも分解した後、蛍光色素と反応させ、DNAを検出する。


3-2. その他の結合色素
RNA:AO(アクリジンオレンジ)
  励起光 488nm  → 発色蛍光 620 nm  − FL2で検出

Ca2+:fluo 3(フルオ3)
  励起光 488nm  → 発色蛍光 530 nm  − FL1で検出

4. DNA解析
 細胞は、細胞周期に従って増殖する。この時、細胞内の核の染色体も増加する。染色体はDNAからできているので、DNA量を測定することで、細胞が細胞周期のどの状態にあるかを推定できる。DNAに特異的に結合する蛍光色素で細胞を処理すると、その蛍光量よりDNA量が推定できる。

4-1. 細胞周期
 G0期:細胞休止状態、DNA量2x
 G1期:細胞増殖開始、DNA量2x
 S 期:DNA合成期、DNA量2〜4x
 G2期:細胞分裂直前、DNA量4x
 M 期:細胞分裂、母細胞が2つの嬢細胞になる、DNA量2x
4-2. 細胞周期と蛍光強度
【実例2】

 CycleTEST 試薬(ベクトン・ディッキンソン社)を用いたDNA解析

  1. 浮遊細胞懸濁液、または付着細胞をトリプシン/EDTA 処理で浮遊させる。
  2. 300 x g、室温で 5 min. 遠心する。
  3. 細胞を2 % FCS / 0.1 % NaN3 / PBS で懸濁する。
  4. 300 x g、室温で 5 min. 遠心する。
  5. (3.)と(4.)を繰り返し、合計2回細胞を洗浄する。
  6. 2 x 106 cells / ml になるように細胞を2 % FCS / 0.1 % NaN3 / PBS に懸濁する。
  7. 細胞懸濁液 200μl にCycleTEST 試薬のA液を1.8 ml 加え、撹拌する。
  8. 室温で 10 min. 放置。
  9. CycleTEST 試薬のB液を1.5 ml 加え、ゆるやかに撹拌する。
  10. 室温で 10 min. 放置。
  11. CycleTEST 試薬のC液を1.5 ml 加え、ゆるやかに撹拌する。
  12. 遮光して室温、 10 min. 放置。
  13. 氷中保存し、6時間以内に測定する。
 新鮮固形組織の場合
  1. 3 〜 4 mm 角の組織を細かく裁断し、0.5 ml のPBS に懸濁する。
  2. 21 G の針をつけた 2.5 ml サイズのシリンジで、10 回程度強く出し入れし細胞をほぐす。
  3. 50 μm のメッシュで細胞を濾過する。

    以下、上記の実例の(6.)に続く。

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Last Updated 2005/8/17