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高速液体クロマトグラフィー (HPLC)


生化学第一講座 石田 哲夫 

1 はじめに
多くの成分を含む試料溶液の中から特定の成分のみを分離し、それを定量または精製することは生化学的研究に欠くことのできない ことです。その際、非常に強力な手段となるのが液体クロマトグラフィー(LC) です。LC 法を構成する最重要部分はカラムです。 カラムというのはステンレス製やパイレックス製の円筒管の中に充てん剤(イオン交換樹脂・シリカ・ヒドロキシアパタイトなど 無数に開発されている)を均一にすきまなく充てんしたもののことを言います。どのカラムも固定相と移動相とをもっています。 カラムの一方から試料を注入し、試料注入につづいて適当な溶離液を流し続けます。溶離液がカラムの移動相となります。試料中 の各成分はカラムの中で固定相と移動相との間をいききします。固定相に全く親和性をもたない成分はカラムの中で常に移動相に あって、その流れに乗ってすぐにカラム出口から溶出してきます。固定相に親和性が強い成分はカラムの中で固定相に存在する時 間が長くなり、固定相に存在する間はカラムの縦軸方向(カラム入り口から出口へ向かう方向)への実質的な移動はないのですから、 なかなかカラムから溶出してきません。このように、試料中の成分がカラムに注入されてからカラム出口から溶出し始め、その 溶出がピークに達する時間 (保持時間といいます)は、その成分の固定相と移動相とに対する相互作用によって決まってきます。 従って、うまくカラムと溶離液を選択すれば、試料中の特定の成分を他の成分から分離できることになります。
 さて、最近の 10 年間に、様々な分離機構に基づく非常に高い分離能をもつカラムや充てん剤が多くのメーカーによって開発され、 しかも価格は下がってきています。これらを自由に使いこなせれば、研究におおいに役立つはずだと思います。そこで、本講演では、 これらのカラムや充てん剤を使いこなすための装置とテクニックについて具体的に解説します。不注意に使用するとトラブルを 生じやすい装置の重要部分についてはできるだけ分解してその構造を実際に目で見てもらい、トラブルが生じた場合の診断と対処の 仕方も理解していただきたいと考えています。
 HPLC 装置は、送液部・試料注入部・分離部(カラム) ・検出部の4部分から構成されています。この順に解説します。

2 送液部
2. 1 溶離液(移動相)
 溶離液は必ずフィルター(0.45 μm) を通し、不溶物 (目で見て分かるとは限らない) を除去してから使用します。 [溶離液に不溶物が混入しているとそれが送液系のフィルター・ポンプのバルブ・ポンプのプランジャーシール ・配管チューブ・カラムのフィルターなどを詰まらせたり傷つけたりするからです。]ろ過用フィルターには水溶液用と 有機溶媒用とがありますので使い分けて下さい。フィルターをパイレックス製ろ過器にセットし、吸引びんに接続、水流ポンプで 吸引ろ過します。[吸引操作をするとき、眼鏡をしていない人は必ず保護眼鏡をして下さい。吸引びんは耐圧製 ですが、知らぬ間に傷ができていて突然破損する可能性があります。マーフィーの法則参照]
 蒸留水やHPLCグレードの有機溶媒(メタノール、アセトニトリル、ヘプタン、クロロフォルムなど)をそのまま用いる場合はろ 過の必要はありません。また、これらのみを混合して用いる場合もろ過の必要はありません。[有機溶媒には 水溶性と非水溶性とがあり、また互いに溶け合うものと混ぜても分離してしまうものとがあります。HPLC装置の中で溶離液が相分 離を起こすとトラブルの原因になります。特に、一つのHPLC装置を水溶液で用いたり、非水溶性溶離液で用いたりする場合は気を 付けてください。水溶液から非水溶性溶離液に交換するときは、まず、蒸留水に交換し、次いで 60% メタノールに交換し、 その後 100% メタノールに交換します。それから非水溶性溶離液を流します。水溶液系にもどす場合はこの逆の順序で行います。]
 溶離液はフィルター(サクションフィルター、セラミック製、1.0 μm) を介して内径の太いテフロンチューブ(サクションパイプ) でポンプの入り口側チェックバルブ(チェックバルブ−in)に接続されています。このサクションフィルターは流路系を微細なゴミ や塩類の結晶による詰まりから守るためのものです。[長く使用していると、ろ過した溶離液を使用していても、 このサクションフィルターが詰まってくることがあります。そうなると、正確な送液ができなくなります。サクションパイプを入り口 側バルブからはずし、10-20 ml のディスポシリンジで吸引してみて抵抗なく溶離液が引けてくるなら、サクションフィルターは詰ま っていません。さらに、シリンジを溶離液を入れた容器(溶離液槽)より下方に移動し、その位置でサクションパイプからはずします。 サクションフィルターが詰まっていなければ溶離液がポタポタとスムーズにサクションパイプから滴下してきます。詰まってしまった フィルターは超音波洗浄してもまずもとに戻りません。硝酸で洗浄する方法もありますが、新品と交換するのが一番です。]
 溶離液(特に有機溶媒を含む溶離液)は脱気する必要があります。流路中で気泡が発生すると、正確な送液ができなくなったり、 カラムを劣化させる原因になります。また、カラム出口で気泡が発生すると、検出器のフローセルの中に気泡が入り正確な測定がで きなくなります。最も簡単な脱気の方法はヘリウムガスで溶離液を約5分間強めにバブリングすることです。ヘリウムの小型ボンベ を手元に置くことが最善ですが、水流ポンプを用いて減圧脱気することもできます。上述の溶離液のろ過操作だけでもかなり脱気でき ています。最近は、脱気装置(デガッサー)が比較的安価に入手できますので、これをサクションの流路系に入れておくと、溶離液の 脱気を特にする必要がないし、常に脱気された溶離液がポンプに供給されるので便利です。
2. 2 送液ポンプ
 高速液体クロマトグラフィー(HPLC)用の送液ポンプは、0.1-5 ml/min の範囲の任意の流量で正確に送液でき、しかも、300- 400 kgf/cm2 の吐出圧を持っています。HPLC 用のカラムの多くは、分離性能を 高くするために直径 3-5 μmの耐圧性充填剤が 高圧で充填されています。従って、これらのカラムに溶離液を流そうとすれば、かなりの圧力が必要になります。そのためには専用の 装置が必要で、最近の 10 年間で、HPLC 用ポンプはほぼ成熟した性能をもつようになり、価格も安くなりました。 [HPLC 装置は HPLC用カラムを使用するためには不可欠ですが、当然ながら、様々な低耐圧性の通常の充填剤を詰めたカラムに対しても 使用できます。この点は意外に忘れられているようです。最近、peek 製の配管キットが開発され、手でしめるだけでチューブの接続が 可逆的にできるようになり、ふつうのカラムに対しても使いやすくなりました。FPLC 用として開発されたカラムは通常の充填剤を 詰めたカラムよりも耐圧性が高いので、HPLC 装置を用いても十分に活用することができます。]
2. 2. 1.チェックバルブ
 送液はポンプヘッド(リキッドエンド)の中に作られた円筒状空間(通常 1ストロークが100-200 μl)にプランジャ(サファイア 製)が出入りすることにより行われます。プランジャは変形カムとバネによって駆動されます。プランジャは変形カムに押されて設定 された流量に合うスピードで円筒状空間に入っていきます。このとき、in 側のチェックバルブは閉じ、out 側のチェックバルブは開きます。 従って、溶離液はカラム側に向かって出ていきます。プランジャが円筒状空間に最も深く入った直後に変形カムからの力がゼロになり、 この間に押し縮められていたバネの力によってプランジャは最も浅い位置まで一気に押し戻されます。このとき、in 側のチェックバルブは 開き、out 側のチェックバルブは閉じ、溶離液が円筒状空間に速やかに補充されます。以上のサイクルによって送液が行われます。
 チェックバルブで弁の役割を果たしているのはルビーの球(ボール)です。in 側のチェックバルブは、特に水溶液で使ったり高濃度の 有機溶媒で使ったりを繰り返していると、ボールやボールシートの表面に粘着性のベターとした不溶物が付着してきて動かなくなることが あります。そうなると、送液ができなくなります。in 側のチェックバルブをはずし、耳元で軽く振ってみます。チェックバルブが正常なら カチャカチャとボールの動く音がします。もしボールが動かなければ、超音波洗浄してみます。たいていはこれでボールが動くように なります。これでだめなら、次亜塩素酸ソーダの中に 10 分間程度浸けてから超音波洗浄してみます。以上でだめな場合はマニュアルに 従ってチェックバルブを分解し、洗浄します。out 側のチェックバルブがトラブルを起こすことは少ない様です。
2. 2. 2.プランジャ
 プランジャはポンプヘッドに常に出入りしています。ポンプヘッドとプランジャとの間はプランジャシールによって液漏れが防がれて います。このシールは円筒状空間内の圧が上がれば上がるほど強くプランジャとポンプヘッドの内壁とに押しつけられる構造になってい ます。高塩濃度の緩衝液を溶離液として用いているときは、プランジャを蒸留水で時々洗浄します。プランジャ表面に塩が析出して、 それがプランジャシールを傷つけるのを防ぐためです。最近の HPLC 装置にはポンプヘッドに出入りしているプランジャに蒸留水を流し かけるための穴やチューブが設けられています。これらのところからポンプが動作中に約 1 分間程度蒸留水を流し続けます。プランジャ シールが傷つくとポンプヘッドから液が漏れてくるのですぐに分かります。
2. 2. 3. ダンパー(アキュムレータ)・ドレンバルブ
 out 側チェックバルブにカラムへ向かう流路を直結しますとポンプヘッドの中の圧力の大きな変化がそのままカラムに伝わり、送液は 大きな脈流を伴う不安定なものになってしまいます。HPLC 装置では、out 側チェックバルブと試料注入部との間にダンパー(容量が 1.5-2 ml )とドレンバルブと圧力センサーを設けています。ダンパーによって脈圧をかなり緩衝でき、それに伴い送液もそれだけ安定 したものになります。また、圧力センサーの出力をプランジャの動作を制御する電子回路にフィードバックすることでプランジャの動作を 最適化することができます。
 カラムにはそれ以上の圧力がかかれば充填剤が壊れてしまったり、カラムの入り口側に透き間ができてしまう圧力(そのカラムの許容 圧)があります。圧力センサーのおかげで、なんらかの理由でカラムの許容圧を越える事態が生じたときに自動的にポンプが停止する様に 設定できます。
 ドレンバルブを開けますと、溶離液は試料注入部・カラムへ流れるのをやめ、ドレンチューブから出てきます。サクションチューブ・ ポンプヘッド・ダンパーとこれらを結ぶ配管系を使用したい溶離液で速やかに置換するとき、ドレンバルブは非常に役に立ちます。即ち、 ドレンバルブを開けておいて 4 ml/min 程度の高速で 5-10 min 送液すればこれらの流路を目的の溶離液で速やかに置換できます。 また、流路に多量の空気が入り込んでいるときは、ドレンバルブを開けた状態でドレンチューブから 20-50 ml のディスポシリンジで 溶離液を吸引することで流路の空気を除去することができます。[ポンプヘッドの中に空気が満たされるとプラン ジャはその空気を圧縮したり膨張させるだけで、送液できなくなります。]

3 試料注入部
 HPLC カラムにシリンジを使って試料を直接注入することは、高い圧力を要するために不可能です。そこで、サンプルループに いったん試料を注入する方式が一般に利用されています。試料注入中は、サンプルループを高圧の流路から切り離しておきます。 溶離液はサンプルループを通らずにバイパス路を通ってカラムの方へ流れています。サンプルループは常圧下にありますので、 容易にシリンジでサンプルループに試料を注入できます。試料の注入が終了したらサンプルループを高圧の流路にもどします。 そうすると、サンプルループの中の試料がカラムの中へ注入されていきます。以上のことを実現するために、6 個の固定した出入り口 (小さな穴)をもつ円盤に対して、穴と穴とを二組づつ連結するための溝を堀こんだ円盤を密着させ、互いにスライドできるように したバルブユニットが開発されています。
 試料注入に用いるシリンジは必ず針の先端が直角にカットされたものを用います。尖った針を用いますと、上述のバルブユニットの 中にあるローターシールを傷つけてしまい、一度誤用しただけでもバルブユニットから液漏れが始まりますので、注意して下さい。
 注入する試料はあらかじめ 0.45 μm のフィルターでろ過しておきます。まず、遠心して大きな不溶物を除き、次に、上清を遠心式 のろ過ユニットをつかってろ過するのが、試料のロスも少なく、便利です。[ろ過せずに試料を注入すると、カラム の入り口側のフィルターを詰まらせてしまうことになります。カラムのフィルターが詰まると、いくら圧を上げても流れなくなり、 カラムが使えなくなります。]

4 分離部(カラム)
 カラムの入り口と出口には、充填剤が漏れださないように、それぞれフィルター(1 μm)があります。このフィルターが詰まると、圧をかけても流れず、カラムが使えなくなります。この事態を避けるために、試料注入部とカラムとの間の流路にラインフィルターを入れておくのが良いです。ラインフィルターが詰まれば、それを取り替えるだけで済みます。
 カラムの性能を長持ちさせるもう一つの工夫は、本体のカラムの前に、本体カラムと同じ充填剤が充填された短い小カラム(ガードカラムといいます)をつなぐことです。不可逆的なカラムの汚れはまずガードカラムに起こるので、本体のカラムは守られます。
 カラムには充填剤を充填したときの方向が、通常矢印で示してあります。カラムを用いるときは必ずその方向で使用します。なぜなら、出口側の方が入り口側よりも低圧で充填剤がつまっているので、逆方向に使うと充填したときよりも高い圧がかかってカラムの中に透き間ができてしまう可能性があるからです。
 使い終わったカラムは、原則として、新品のカラムが置換されていたのと同じ溶媒 に置換してから、密栓して保存します。しかし、順相系のカラムは 0.05 % (w/v) のアジ化ナトリウムをふくむ蒸留水で置換して、逆相系のカラムは 60% メタノール(メタノール/蒸留水 = 60/40 (v/v)) で置換して、それぞれ保存しても問題なさそうです。

5 検出部
 試料中の各成分の溶出は、そのものの性質により、様々な方法で検出できます。どの検出器の場合でも、カラムからでてきた溶離液は、容量が 0.5-10 μl のフローセルの中を連続的に通り抜けます。最近、優れた検出器が数多く開発されてきていますので、本講演の中でできるだけ紹介したいと考えています。

6 おわりに
 カラムの性能評価の仕方など、カラムクロマトグラフィーの理論的側面は、多くのテキストで説明されていますので、本講演では、実際に HPLC を活用するときのテクニックを中心に話をすすめ、皆さんに HPLC およびその装置について親しんでいただきたいと考えています。

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Last Updated 2005/8/16