木村 博 Hiroshi KIMURA (放射線基礎医学・教授)
今回は、講義形態の変更にともない、内容をほぼ全面的に変え、また、そのための用意の時間が少なかったので、
標記の課題にしぼってRIの取扱について簡単に講義を行う予定である。特にここで例としてあげる32Pは
β線を放出するが、そのエネルギーは極めて高く、外部被曝の対象となる。そこで、被曝を極力避けつつ、的確に実験を
行うための操作法について、主としてスライドを中心に説明を行う。
ヒトDRP遺伝子は核酸代謝に関与する酵素DHPの遺伝子をプローブにしてスクリーニングした結果得られた4種
からなる遺伝子である。この遺伝子産物の機能は未だ不明であるが、多くの蓄積された結果から類推して、神経系の発生に
関与していることが確実である。われわれは、この遺伝子が発生の過程でどのように発現しているかを調べるため、
その目的に適した硬骨魚類の胚を用いて研究をすすめることを計画した。
そこで、まず硬骨魚類DRP遺伝子の単離を試みた。主に6日胚の脳を含む部位からmRNAを抽出し、逆転写酵素を用いて
SMART-PCR(図)を行い、完全長cDNAライブラリーをλファージに組み込むことで作成した。このλファージを大腸菌に感染させ、
アガロースプレートに播くことで100万個のプラークを形成させた。ナイロンメンブレンに移した後、DRP遺伝子断片を
プローブとしてハイブリダイゼーションを行い、DRP遺伝子を持ったλファージを特定した。
このハイブリダイゼーションを行う際に32Pを用いる。現在では、アイソトープの扱いが少しやっかいなのと
指定された場所で行う必要があることから、アイソトープを使用しない方法がたくさん開発されつつある。しかしながら、
この一次スクリーニングやゲノミックサザン法などでは相変わらず32Pを用いた方法が感度がよく適していると考えられる。
32Pのβ線は約1.7MeVのエネルギーを持ち空気中では最大数メートル飛び、体内の透過性は最大1cmほどにもなると
言われている。被曝を極力避けまた汚染をしないためには、透明な厚さ1cmほどのプラスチック板が便利でよく利用されている。
目などへの余分な被曝を避ける心がけも大切であろう。ただし、指先だけはある程度の被曝は避けられないので、特に原液を扱う場合には
、不必要に長時間持たないことが重要である。
さて、プローブとして用いたDRP遺伝子断片は、硬骨魚類のcDNAをデジェネレートプライマーを用いてPCRを行った後、
予想された長さの断片をプラスミド中にクローニングし、配列決定によりそうであると判定したものを用いた。この遺伝子断片を鋳型とし
、キットを用いて32P-dCTPでラベルした後、これをプローブとしてナイロンメンブレン上のプラークとハイブ
リダイゼーションさせた。オートラジオグラムによると一枚のメンブレン当たり数個のシグナルが得られた。この後
、二次スクリーニングを経て、硬骨魚類のDRP遺伝子を持ったλファージクローンを単離し、プラスミドに転換後、
全配列を決定し、発生の各時期でどのように発現しているかを調べている最中である。
講義の後、RIセンターにて、RIセンターの機器の紹介と、使用にあたっての諸注意を行う。液体シンチレーションとインスタントイメージャーの使い方については、実際の使用例を示しながら紹介する。
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Last Updated 2005/8/9