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遺伝子発現調節機構の解析


上山 久雄 Hisao UEYAMA (生化学第二・助教授)

プロモーター、エンハンサー、転写因子、
トランスフェクション、ゲルシフトアッセイ

 遺伝子の構造解析が近年急速に進み、遺伝子の異常による疾病、すなわち、癌や、糖尿病、高血圧症などを含んだ遺伝性の疾患の 病因が明らかにされつつある。その殆どは遺伝子産物が異常となるものであり、コーディング領域に起こったミスセンス変異や ナンセンス変異、あるいはフレームシフト変異などが多い。一方、遺伝情報がタンパク質として発現されるまでの過程の障害を引き起こす 遺伝子異常も存在する。例えばサラセミアでは、遺伝子上流領域の塩基置換(転写の効率を下げる)、イントロン中の塩基置換 (スプライシングの効率を下げる)などが見つかっている。
 コーディング領域をまず調べ、異常が見つからなかった場合には、遺伝子上流領域やイントロン内部を解析することになる。 このような時、これらの領域のどこに意味があるか、つまり、どの部分が転写にとって重要か、という情報が予めあれば、 解析は非常に楽になる。また、そのような情報は、遺伝子の発現を厳密にコントロールせねばならないような遺伝子治療を 目指す際にも役に立つ。
 転写にとって必要な塩基配列は転写調節シスエレメントと呼ばれ、そこに結合して転写を実際に促進、あるいは抑制する タンパク質は転写因子と呼ばれる。シスエレメントは大ざっぱに3つに分類することができる。基本エレメントと上流エレメント、 そしてエンハンサーである。最初の2つはまとめてプロモーターと呼ばれることもある。
 基本エレメントは殆どの遺伝子に共通のもので、TATAボックス、CATボックス、Sp1など、転写開始点のごく近傍の上流に認められ、 普遍的な転写因子が結合する。上流エレメントはさらにその上流にあるもので、調節エレメントとも呼ばれ、遺伝子によって かなり異なることから、細胞組織特異的な転写、あるいは、例えばcAMPを二次メッセンジャーとするような刺激やステロイドホルモンに 対する応答などの遺伝子発現の誘導過程に関与している。
 エンハンサーの定義はあいまいではあるが、(i)必ずしも上流になくともよい、すなわち、イントロン中にあっても、 また、下流にあっても働く、(ii)逆向きに存在しても働く、(iii)転写効率を10倍から100倍も上昇させる、などといった、 プロモーターにはない特徴がある。
 一方、転写因子はその持つ構造からいくつかに分類されている。ヘリックス−ターン −ヘリックス(ホメオドメインタンパク質など)、 ジンクフィンガー(ステロイドホルモン受容体など)、ロイシンジッパー(JunやFosなど)、ヘリックス−ループ−ヘリックス(Mycなど )タンパク質などがある。転写因子の結合する塩基配列、つまりシスエレメントの塩基配列は厳密でないことが多い。
 転写調節機構の解析は、シスエレメントを同定することから始まる。その方法としてはレポータープラスミドを用いた トランスフェクションが一般的である。上流からの欠失を作成し、レポーター遺伝子(クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ (CAT)やルシフェラーゼ)の上流につなぎ、培養細胞に導入する。
 例えば、-100(転写開始点から上流へマイナスをつけて塩基番号とする)までの欠失ではCATの活性を検出できたが、 -90まで削った時活性がなくなったとすれば、-100と-90の間のどこかから始まるシスエレメントが存在すると予想されるわけである。 この10塩基の配列を、少し下流まで含めて、これまでに数多く見つかっている転写因子の結合配列と比較すれば、 どのような転写因子が関係しているかを推測することができる。見当をつけた転写因子が実際にその配列に結合することは、 それと結合コンセンサス配列との間における競合を、ゲルシフトアッセイによって確かめればよい。

 本講義では、当講座で実際に扱った遺伝子を例にとり、次のような事項について説明する。

  1. 上流側からの段階的欠失作成(粗い方法と細かい方法)とそのクローニング
  2. PCRを利用した、部分的欠失作成と塩基配列改変
  3. トランスフェクション
  4. ゲルシフト法

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Last Updated 2005/6/22