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生体NMRスペクトルの局在化の手法と代謝画像への応用


森川 茂廣 Shigehiro MORIKAWA (代謝情報制御・助教授)

生体NMR、局在化NMRスペクトロスコピー、代謝画像

 生体NMRスペクトロスコピーは、非侵襲的に生体内の代謝情報を取り出せる有用な方法であり、近年、種々臓器の多様な疾患の病態解析に用いられている。生体のスペクトロスコピーに用いられる核種としては、31P, H、が 一般的であるが、そのほかにも、19F, 13C,23Naなども対象となる。31Pでは、ATP、クレアチンリン酸(PCr)といった高エネルギーリン化合物と、無機リン酸(Pi)の比率から、組織のphosphoenergeticレベルを知ることができ、またPCrとPiのケミカルシフトの差から細胞内のpHを計算することも可能である。Hでは、生体内の乳酸、クレアチン、コリンなどを検出でき、脳内では、ニューロンに特異的とされるN-acetylaspartateが注目されている。19Fは、抗腫瘍剤、向精神薬、麻酔薬などの薬物代謝の解析に用いられることが多い。13Cは、自然界に存在する(12Cの約1%)安定同位元素で、この13Cをenrichした各種の化合物は、生体内のグルコース、アミノ酸代謝を解析するトレーサーとして利用されている。これはPETと異なり、放射線被曝の危険がなく、代謝された化合物を区別して検出できるという大きな利点を有する。23Naは、細胞内外の分布を検出することにより、膜機能の評価に用いられている。
 しかし、こうした代謝情報は、目的とする限定された領域から収集されてこそ、初めて価値が生まれる。例えば、体や頭全体の信号を集めてきても、たいした意味はないが、頭皮ではなく脳内の信号を、更に大脳皮質と基底核領域、あるいは、健常部と病変部を区別して検出できる様になると、その情報の価値は、飛躍的に高まる。従って、生体NMRにおいて、局在化(Localization)は非常に重要な要素となる。
 Localizationの最も簡単な方法は、小さな表面コイルを用いることで、限定されたコイルの感度領域のみからの信号を選択的に検出するが、選択性が低く、適用範囲が表在部位に限られるというのが欠点である。深部臓器の信号を無侵襲に捉えるためには、周波数選択パルスと傾斜磁場を組み合わせ、目的とする部位の信号をできるだけ効率よく選択的に収集する必要があり、さらに他の部位の信号、不必要な信号を排除するための様々の工夫がなされている。領域選択の方法も、単一の領域(Single Voxel)を選択する方法と、同時に多数の領域(Multi-Voxel)の信号を収集し、各部位毎に代謝情報を解析し、画像化することも行われる。本学では、平成10年度に更新された臨床用1.5 T(テスラ)SIGNA LXシステム、及びSIGNAシステムのマグネットを利用したSMISコンソール、動物実験用2.0 T、CSI OMEGAシステムなどのNMR装置を用いて、実験動物だけでなく、臨床例に対しても、全身諸臓器に対するNMRスペクトロスコピーを用いた研究が行われている。ここでは、臨床MRIのもっとも基本的な撮像法であるスピンエコー法をベースにして、代表的な、スペクトロスコピーのLocalizationの方法についての原理を簡単に解説するとともに、いくつかの実例を供覧する。

(A) Single Voxel Localization
(1) DRESS (Depth-Resolved Surface Coil Spectroscopy)
 表面コイルと、スライス選択パルスを組み合わせる。コイルに平行な平面の領域は、表面コイルの大きさで選択し、深さ方向はスライスで選択する。比較的単純で感度の良い方法であり、心臓や脳の31Pスペクトロスコピーに広く一般的に用いられている。表面コイルを用いているため、深部の臓器への適用は難しいことと、周辺部からの信号が完全に除外できないことが欠点である。

(2) STEAM (Stimulated Echo Acquisition Mode)
 3次元空間 x, y, zの3軸各方向に、スライス選択の90°パルスを組合せ、3つのスライスが交叉する直方体からの信号をエコーとして捉える。スライス選択パルスの厚さと部位を変えることによって、任意の場所の任意の体積を選択できる。しかし、エコー信号を捉えるため、横緩和時間(T)の長いH核には利用できるが、Tの短い31Pには、適用できない。主として脳のHスペクトロスコピーに用いられている。但し、Hのスペクトロスコピーでは、体内に圧倒的に存在する水や脂肪に由来したHの強大な信号を抑制し、求める化合物の信号のみを選択的に工夫が必要となることが多い。

(3) ISIS (Image Selected In Vivo Spectroscopy)
 3次元空間 x, y, zの3軸各方向に、信号の位相を反転させるスライス選択の180°パルスのON、OFFの組合せ(3次元空間では2=8通り存在)を行った後、非選択性の励起パルスで励起し、直ちに信号を検出する方法で、8回1サイクルの積算を行うと、3つのスライスが交叉する部分以外の信号は、キャンセルアウトされ、目的部分の信号だけが有効に加算される方法である。本法では、励起パルスの直後からデーター収集が開始されるので、Tの短い31Pスペクトロスコピーに利用される。しかし、目的とする化合物のケミカルシフトの相違によって、選択されるスライスにずれが生じるので、注意が必要である。

(B) Multi-Voxel Localization
(1) CSI (Chemical Shift Imaging)
 x, y, zの任意の軸に位相エンコードの傾斜磁場をかけた後にデーターを収集し、位相の軸方向にフーリエ変換を行い、各Voxelに対応するスペクトルを求める。位相エンコードをかける軸の数を増やすと二次元、三次元の空間分解能が得られる。各々のVoxelに対応するスペクトルが存在し、ケミカルシフトの異なる各化合物の分布を画像化することができるので、Chemical Shift Imagingと呼ばれ、31PやHの代謝画像に用いられる。さらに、化合物の含有量の分布だけでなく、Voxelごとの化合物の比率や、ケミカルシフトから求めたpHなどからも画像を構築することが可能である。しかし、Multi-Voxelのためデーター収集に長時間を要するのが欠点である。

(2) EPSI (Echo Planar Spectroscopic Imaging)
 ハードウェアーの発達により傾斜磁場の高速のスイッチングが可能となり、臨床MR装置でも超高速撮像法であるEcho Planar Imaging (EPI)が可能となった。EPSIはこの方法をスペクトロスコピーに応用して、Multi-Voxelのデーター収集の高速化を図ったものである。この方法では、1軸方向の位置情報は高速に反転するreadの傾斜磁場により印画される。これにより、代謝画像を構築するためには、CSIでは2軸方向にphase encodingをかける必要があったが、EPSIでは1軸方向で済ませることができる。この方法では、データー収集時間は、代謝画像の分解能が8 x 8の場合は1/8に、16 x 16の場合には1/16に大幅に短縮できることになる。しかし、長いエコー系列のデーターを検出するので、T、T*がある程度長い化合物である必要があり、その実行のためには厳密な磁場の調整と、高性能の傾斜磁場が必要である。

 以上、基本的な生体NMRスペクトロスコピーの局在化の方法について概説したが、目的とする部位、核種、緩和時間、感度、時間分解能などを考慮して、最適の局在化の方法を使い分ける必要がある。

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Last Updated 2005/8/8