礒野 高敬 Takahiro ISONO (実験実習機器センター・助教授)
Polymerase Chain Reaction (PCR) 法は、分子生物学のみならず、医学を始め生物学全体に広く浸透し、更に、新たな応用法が開発
され適応範囲を広げようとしている。本講義では、PCR法の活用法を、講師が実際に行った事例を紹介しながら解説する。また、PCR法を
用いるうえで、決定的な役割を演じるプライマーの設計法についても解説するとともに、実際に設計の演習を行う。ご自分の研究対象の
遺伝子のためのプライマー設計も歓迎します。
PCR法の活用法
1)ウイルス遺伝子の検出
成人T細胞白血病ウイルス(HTLV-I)、単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)に対するプライマーを作製し、ウイルスに感染しているか
どうかを判定した。ドットブロット法で、ウイルス遺伝子の半定量も行った。微量なウイルス遺伝子の検出には、プライマーの
出来不出来が大きく効いた。市販のプライマー及び文献上のプライマーが必ずしもいいものではなかった。
2)RT-PCR
RNAを逆転写酵素(reverse transcriptase [RT])で、cDNAに変えて、遺伝子発現を調べるPCR法。サイトカインや
ウイルス遺伝子の発現の解析に用いた。定性的解析でも、定量的解析でも、RT反応をしていないRNA試料についてもPCR反応を行い、
DNAのコンタミが無いことを確かめることが重要である。また、定量的解析では、試料ごとのばらつきが必ずと言っていいほどあるので
、glyceraldehyde-3-phosphate dehydrogenase (G3PDH) 遺伝子等の内部コントロールのRT-PCRを行い、標準化することが重要である。定量は、以前は、RI標識してデンシトメーターを用いていたが、今は、エチブロ染色で定量出来る実験センターの装置を用いて行っている。
3)PCRインビトロクローニング
講師は、ウイルス腫瘍のウサギのモデルを扱う中で、既存の免疫関連遺伝子のウサギのホモログ遺伝子を、ヒト、
マウス等の他種のDNA塩基配列の情報に基づいてプライマーを作製して、PCRインビトロクローニングを行ってきた。
ホモログ遺伝子のクローニングには、アミノ酸配列に基づきジェネレイトプライマーが使用されることが多いが、
プライマー同士の会合が起こりやすくうまく行かない場合が多いので、講師は、ホモロジーの高い配列部分のヒトの配列でプライマーを
作製しておおむねうまくいっている。PCRは、プライマーが100%一致しなくても、善悪にかかわらず増幅が起こるものである。
特異性を上げるため、ネスティドPCRができるようにプライマーペアを2組作製している。
4)PCR法を用いた遺伝子歩行
既知のDNA塩基配列の前後の塩基配列を決定したい場合がある。PCRを用いてそれを決める方法がいろいろと開発されている。
講師は、cDNA 及びゲノムDNAを制限酵素処理した後、カセットをライゲーション反応で結合させた後、既知の配列特異的な
プライマーとカセットの配列に特異的なプライマーでPCRを行い、遺伝子歩行を行うcassette-ligation mediated PCR法を主に
用いている。他に、terminal deoxynucleotidyl transferase を用いる anchored PCR法や、制限酵素処理したDNAを
ライゲーション反応で環状化した後、既知の配列特異的なプライマーペアを、既知の配列の外側に延びるように1組作製して
PCRを行う inverse PCR 法も用いている。
5)その他のPCR 法の活用法
トランスフォームした大腸菌のインサートを確認するのには、colony PCR が有効であり、クローニングしたファージの
インサートを確認するのには、plaque PCR が有効である。融合タンパク質を作製するためのインサートを作製するのには、
インサートのために必要な制限酵素部位を持つプライマーペアを1組作製し、PCR を用いるのが簡単である。
以上、PCR 法の活用法をいろいろと紹介したが、いずれの場合もそれに適したプライマーの設計が必要となる。プライマーの
設計のポイントを説明し、講義の最後にプライマーの設計の演習を行う。講義の時以外でもプライマーの設計の演習を希望するものは、
どんどん講師の研究室に来て下さい。
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Last Updated 2005/6/22